「生き返ったというか、彼らしさが出た」。3月17日のJ2第4節横浜FC戦後、アルビレックス新潟の鈴木政一監督(63)はこうコメントした。「彼」とは、FW矢野貴章(33)を指す。

 矢野は開幕からスタメンのFWに名を連ね、横浜FC戦ではチーム2得点目、自身3試合連続ゴールを挙げた。3戦連発は16年目を迎えたプロ生活で初だった。

 鈴木監督が言う「らしさ」とは、187センチの高さ生かした攻撃と、前線から激しく、しつこくかけるプレッシャー。球際の強さ、豊富な運動量で、1年でのJ1復帰を目指す新潟をけん引している。

 「思い出しながらですね」。2月の高知キャンプ。矢野は慎重にFWとしての動きを探っていた。名古屋グランパスから5年ぶりに新潟に復帰した昨季は、DF登録だった。名古屋で開花した右サイドバックとしての能力を生かすことがテーマだった。

 J2で戦う今季、新たに就任した鈴木監督はFWを要望。昨季終盤に前線に入る機会は増えたが、本格的にFWとしてシーズンを迎えるのは13年以来。ただ、「求められた仕事をやる」。プロ入り以来、その姿勢は変わらない。

 06年に柏レイソルから新潟に移籍し、10年W杯南アフリカ大会の日本代表に選出されたときはFWだった。プレスを惜しまず、カウンターを食らったときにはゴール前に戻って体を張り、再び前線に走る。持ち味の泥くさいプレーは、30歳代前半になった今も変わらないことを証明している。

 「矢野らしさ」は「新潟らしさ」に置き換えられる。鈴木監督のもと、チームは開幕から攻守にアグレッシブなプレーに徹している。それこそが周囲が求めていた新潟の姿。そしてその象徴が矢野だ。「矢野らしさ」が際立つことが、J1復帰の基盤になる。【斎藤慎一郎】

 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)生まれ、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。サッカー以外にはバスケットのBリーグ、Wリーグの高校スポーツなどを担当する。