日本代表がロシアワールドカップ(W杯)で決勝トーナメント進出を決めたポーランド戦。残り10分の時間稼ぎが物議を醸したことは記憶に新しい。

 試合には敗れはしたが、同時進行のセネガル対コロンビアの戦況を見ながらボールを回すしたたかな戦術? で、道は開けた。

 賛否両論が世界中でわき起こったが「ドーハの悲劇」から25年。残り1プレーでW杯初出場を逃したあの悲劇から、「したたかな時間の使い方」こそ、日本サッカー界にとって克服すべく大きな課題だったはずだ。新生森保ジャパンの方向性を考える上でも、ぶれずに「勝利に徹する時間の使い方」を磨いていってもらいたい。

 「ユアスタの悲劇」といったら少し大げさだろうか。ベガルタ仙台ホームで行われた7月28日のセレッソ大阪戦でも、この「時間の使い方」で議論がわき起こった。2-1で迎えた後半ロスタイム5分、だれもが仙台の勝利を確信した瞬間、悲劇は起こった。GK関憲太郎(32)が前線のターゲットに放ったボールがワンバウンドして直接相手GKキム・ジンヒョン(31)の手中に。ここからパワープレーで失点。勝ち点3をほぼ手中に入れながら、残り1プレーで痛恨のドローとなった。うだるような暑さの中、声援を送り続けたサポーターにとっては、ぐったりするような悪夢のナイトゲームとなった。

 渡辺晋監督(44)は「結果論だが、最後の時間の使い方のところで高い授業料を払ってしまった。もちろん『角に持っていけ』という指示は出しましたけれども、1万5000人の素晴らしい歓声があれば、そんなものはおそらく届いていないでしょう。このゲームを勝とう思えば、しっかりと11人の選手が判断してやればできること。我々がやれていたことなので、しっかりと整理して次節に生かしたい」と振り返った。

 あくまでも結果論。そのまま何もなく終わっていればなかった話なのだ。ロスタイム5分。終わった話を蒸し返すのも悪いが、ピッチ内の選手たちに「時間の使い方」を振り返ってもらった。

 「正直勝ったと思った。全員そう思っちゃったのかも。まだ信じられません」。2月に生まれた長男嵩人(しゅうと)君が観戦に訪れる中、後半にヘディングで1度は勝ち越しゴールを決めたMF蜂須賀孝治(28)は試合後、失意の表情でこう振り返っていた。

 蜂須賀 相手が割り切って攻めてきていたので、守備は意外にざるになっていた。ボールも握れていたし、崩せていたので行けちゃうなと思ったが、そこで簡単にボールを失ったり、シュートで終わってもキーパーにキャッチされて相手ボールになったり。遠くに逃げようとしても相手ボールになってすぐに返ってくるので、慌てずに冷静にやれていれば違った結果になっていたと思う。3点目が取れていれば最高だったけど、上位へいくためには敵陣コーナーめがけて行くとか、ポーランド戦の日本代表ぐらい徹底的にやればよかったのかもしれません。

 プロ14年目でリーグ通算258試合出場を誇るベテランDF平岡康裕(32)は「もったいない試合」と振り返った。

 平岡 ボールを奪って前進したとき、スペースも多かったのでボールを保持する時間も多かったが、それは前線の判断。ロスタイムに入っても相手がきていなかったので、時間を使いながらいなしていけば最後の1プレーはなかったと思う。1点取りに行くのか時間を稼いで終わるのか。ホームでしっかりダメを押していれば勝てた試合だった。

 3バックのセンターで最終ラインを統率する主将のDF大岩一貴(28)は、対戦前に第17節C大阪対鹿島アントラーズ戦の映像を見返して、常勝軍団鹿島の勝利への執念を感じ取ったという。

 大岩 2-0でリードしている状況でも、終盤に入ると露骨に時間稼ぎしていた。あれぐらい徹底することが大切。結果論だが、点を取って終わればいいけど、シュートを打っても、クロスを上げても相手キーパーにキャッチされていた。もっとキープして時間を使うこともできたはず。開幕戦ではそれができていたし、スローインやリスタートで時間を稼いだり、もっと泥臭く時間を使えたところもあった。時間を稼ぐならみんなで徹底することが大切。

 くしくもこの試合、日本代表の森保一監督(49)が就任後初めてJリーグ視察に訪れていた。ドーハ戦士でロスタイムの悲劇を誰よりも知る仙台OBの目に、「最後の時間の使い方」はどう映ったのだろうか。


 ◆下田雄一(しもだ・ゆういち) 1969年(昭44)3月19日、東京都生まれ。Jリーグが発足した92年に入社し写真部に配属。スポーツではアトランタ、長野、シドニー五輪などを撮影取材。17年4月に2度目の東北総局配属となり、同11月から仙台を担当。