今年5月に開催予定だったU-20W杯と、その予選を兼ねたU-19アジア選手権が、新型コロナウイルスの影響で中止となった。影山雅永監督(53)率いる同年代の日本代表は、昨年7月から月1回ペースで強化合宿を行ってきたが、世界に実力をぶつける舞台は、無念にもウイルスによって奪われてしまった。

強化合宿は毎度、集合時のPCR検査やチーム内での「3密」の予防など、徹底した感染拡大防止策を講じた上で実施されてきた。通常の合宿では、選手は食事の際に会話をしたり、互いの部屋を行き来するなどして親交を深めるが、コロナ禍では行動に制限がかけられていた。そこで9月以降の合宿では、選手の交流の場を設けようと、スタッフ主導の趣向を凝らしたグループワークが行われた。

この年代を構成するのは、高校を卒業したばかりの若い選手たち。大人へと成長していく過程にあり、仲間と腹を割って話すことを恥ずかしがる選手もいる。グループワークを通して、分かりやすく考えを伝えることの難しさ、仲間の意見に耳を傾けることの大切さを、身をもって感じてもらうことも狙いだっただろう。

◆内田篤人コーチの「紙飛行機大会」

昨年8月に現役を引退し、9月以降の合宿に参加した内田篤人ロールモデルコーチ(32)も、自ら考えたグループワークで若いチームの結束力を高めた。内田コーチが担当した11月の合宿で行われたのは、「世界へはばたけ!紙飛行機大会!」。広い会議室で社会的距離を確保し、マスク着用、大声禁止などを徹底した上で、4人~5人ずつのグループごとにより遠くへ飛ぶ紙飛行機を考える、というものだった。

当然報道陣には公開されていないが、代表スタッフによると、これが非常に盛り上がったという。内田コーチは選手たちの発想力を引き出すべく、折り紙や厚紙など、紙飛行機の素材からこだわって準備。コースにも選手の未来をイメージして「W杯」「欧州CL」など、飛距離に応じた到達点を設けたという。

レクリエーションを兼ねたグループワークは好評で、遠くに飛ばすための折り方を全員で議論するグループ、ひたすら投げ方を研究する担当を設けるグループなど、それぞれの色を出しながら、楽しんで課題をこなしていたという。ちなみに優勝したのは、DF西尾隆矢(C大阪)、DF中野伸哉(鳥栖U-18)、MF鈴木唯人(清水)、MF鮎川峻(広島)、MF藤田譲瑠チマ(徳島)のグループ。飛距離のみならずデザイン性やプレゼンテーションなどの総合評価だったといい、優勝景品としてコーチ陣赤面の「現役時代の写真」が渡されたそうだ。

ただグループワークを考えただけでなく、盛り上がりとオチまで用意した内田コーチの仕事ぶりを、影山監督は「準備の周到さ、アイデア、選手を乗せる技術。すべてがプロフェッショナルで、非常にいいグループワークになった」と高く評価していた。

◆「マネジャーにイモトアヤコ」も

他にも、中馬健太郎コンディショニングコーチ(40)の「箱根駅伝出場校のコンディショニングコーチになったら?」、高桑大二朗GKコーチ(47)の「もしもマネジャーにするなら?」など、スタッフ陣の考えたグループワークは、いずれも盛り上がったという。マネジャーには美人女優の名前が挙がるばかりでなく、お笑い芸人のイモトアヤコで2グループ指名がかぶるなど、多角的な視点から活発に意見が飛び交ったようだ。いずれも、グループでの議論+プレゼンテーションをセットで行ったといい、選手が互いの得手不得手を理解し合いながら、グループとしての完成度を上げることで、チームの一体感を高めていった。

世界と戦うには、個の力を伸ばすだけでなく、組織としての力をつける必要がある。影山監督は11月の合宿の際、「選手の会話やピッチ上での要求が、(7月の)1回目の合宿と格段に違う。だんだんグループワークに慣れてきた。スタッフも1時間のために何週間も準備してくれた。得るものが大きく、やってよかった」と話していた。毎回たった1時間でも、積み重ねたものは目に見える形でピッチ内に還元されていた。

こうして組織力を高めたこの世代が、世界と戦う姿を見たかった。コロナ禍で当面の間大会は予定されていないが、24年パリ五輪やその先にあるA代表で、彼らがスポットライトを浴びる日が来るよう願わずにはいられない。【杉山理紗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)