5日の等々力競技場で行われたルヴァン杯・川崎フロンターレ対浦和レッズの試合後、川崎Fのサポーターが横断幕を掲げた。

「地域密着は後回し。功労者は次々と辞めていく」「吉田富士通体制の事業方針はこのままでいいのか?」。

文字を見た瞬間、目を疑った。地域密着といえば、川崎Fの「一丁目一番地」。「スタジアムに1万人入ったら大事件」と言われたJ2の時代から、クラブと選手・スタッフが両輪となり、コツコツと地域での活動を積み上げ、今やJリーグを代表する大きなクラブへと歩みを進めている。その地域密着が後回しとは、どういうことなのか…。

横断幕を出したサポーターに話を聞いた。

今年に入り、24年間にわたりサポーターや地元、クラブをつないできた営業スタッフが退社した。クラブ発足当時から、強化に携わったスタッフもチームを去った。そのほか、地域とクラブの関係作りに尽力した事業スタッフも退社している。定年やキャリアアップの事情があるにせよ「地元密着」の中心スタッフがクラブを去っていることに、危機感を抱いているという。

実際、ホームタウンの武蔵小杉や元住吉の商店街のタペストリーやポスターは、新シーズンが始まっても交換されていない所もあったそうだ。サポーターは「コロナ禍もあるかもしれないが、やれることはある」とし「かつてはクラブのスタッフが頻繁に街に足を運び、地元の方と直接顔を合わせて話し、新しいお店が出ていればあいさつしたり、関係をつくってきた」。クラブの規模が大きくなり、効率化が求められる時代にはなっているが「コツコツとホームタウンに足を運ぶスタンスは希薄になってはいけない」と指摘する。

横断幕は、試合の結果にかかわらず、掲げる予定だった。試合後、選手がロッカールームに引き上げてから横断幕を掲げたのも、選手やスタッフに動揺を与えたくなかったからだ。今季は負傷者もいて苦しいスタートになっているが、サポーターたちは、フロンターレを応援し続ける姿勢を示しており、横断幕の最後には「どんな時でも俺達は鬼木フロンターレを後押しし続ける」と締めくくっている。

サポーターは「商店街の方々の声を聞いても、スタッフが足を運んでいる機会が明らかに減っている。アジア戦略の前に、今まで大切にしてきた土台が崩れたら意味がない。崩れるのは速い。崩れる前に、声を上げるべきだと思った」と横断幕を掲げた意図を明かす。

記者は16年から19年まで川崎Fを担当した。17年に悲願のリーグ優勝を達成し「シルバーコレクター」を返上した瞬間も見た。選手が地域貢献やクラブのエンターテインメント活動に積極的に参加し、他クラブからは「こんなことばかりしてるから優勝できないんだ」と陰口をたたかれていたが、そんな声を覆しての優勝だった。

クラブが一体となり地域貢献をし、圧倒的な技術を駆使した強いサッカーで観客を魅了したフロンターレは、サッカーの歴史に変革をもたらしたと感じていた。当時の藁科義弘社長も「これがフロンターレのDNA」と話していたのを思い出す。

クラブは現在も、シーズン前には、選手とスタッフが地元の商店街を回り、交流を深めており、算数ドリルも続いている。コロナ禍で、練習の公開日は少なくなっているが、5月8日から、新型コロナウイルスも2類から5類となる。社会も変わり、現場も変化が生まれるだろう。今は担当を離れているが、時代は変わっても、地域に愛されるフロンターレの魅力は続いていくと信じている。【岩田千代巳】