積み重ねた“1歩”が世界一への近道となる。サッカー女子の日本代表「なでしこジャパン」が臨むワールドカップ(W杯)フランス大会が6月7日に開幕する。前回大会まで6大会連続出場の世界記録を持つレジェンド、澤穂希さん(40)が単独インタビューに応じ、W杯への思いを語った。「Allez! なでしこ」では、W杯へ向けた、なでしこジャパンの話題を3回連載する。【取材・構成=松尾幸之介】

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澤さんは、自身不在の「なでしこジャパン」について「すごく若返ったなという印象はあります」と口を開いた。前回15年カナダ大会で共闘した選手はわずか6人。平均年齢も約4歳下がった。15年末に引退後は解説者として代表戦を見ており、W杯を勝ち抜く上で必要な要素に「球際でのもう1歩の寄せ」を挙げた。

澤さん W杯のようなレベルの高い舞台では、少し間合いを空けると、すぐにシュートを打ってきます。今の代表戦を見て、相手にフリーで打たれる場面がすごく気になりました。優勝した時(11年)は全員の寄せが早かったです。そこを詰めるだけで相手が打てない状況になったり、遅らせることができます。試合中はしんどいけど、もう1歩詰めるべきだと思います。

日本は澤さんが主将だった11年W杯で優勝を果たし、12年ロンドン五輪で銀メダルを獲得。15年もW杯カナダ大会準優勝と栄光の時代を歩んだ。その経験から、試合中のコーチングの重要性も説いた。「どんなに首を振っても360度、全部は見えません。勝つためには年齢関係なく、それぞれが見えていることを伝えることが必要不可欠です。テレビ中継用の集音マイクに声が拾われるぐらい大きい声を出してもいいと思います」と力説した。

現在のなでしこジャパンは、澤さんが引退後の16年、リオ五輪アジア最終予選でまさかの敗退。メディア露出が減り、なでしこリーグの観客動員数も減少傾向にある。「何年か前に比べて女子サッカーの注目度が低くなっていることはみんな感じていると思います。でも、なかなか結果が出ない苦しい時代もあっていいと思います。だからこそ優勝した時に自分たちが成長できたなと思える時間になるんです」。

95年に16歳でW杯スウェーデン大会のピッチに立った。以降は何度も世界の壁にはね返されながらも約16年かけて世界一までたどり着いた。諦めない心と積み重ねた努力。個人としても11年W杯で得点王とMVPに輝き、同年度のFIFA女子最優秀選手に輝いた。「悔しい思いがあったからこそ、頑張れた自分があります」。後輩たちにとっても、リオ五輪予選敗退を糧にした今が成長するチャンスだと見ている。

ピッチにこそ立たないが、今大会はフジテレビ系列の生中継で解説者として後輩たちを後押しする。引退後にボールを蹴ったことはほとんどなく、「現役をやりきったので、プレーへの未練はないです」と笑う。17年1月に長女を出産し、2歳になる娘の子育てに奔走する毎日だ。

澤さん 親心じゃないけど、みんなを見守っている感じです(笑い)。本番になったら緊張もあるし、空気にのまれてしまうかもしれません。そういう時こそ経験ある選手が、若手の背中を押してあげてほしいです。私が初出場の時は、試合に出られることがうれしくて、試合中に相手GKに衝突してそのまま救急車で運ばれちゃったんですよ。それぐらい怖いもの知らずでぶつかっていました。若い選手たちはうまくやろうとせず、がむしゃらに楽しむくらいの気持ちで臨んでほしいです。たとえ、うまくプレーできなくても「夢の舞台でやってやるぞ!」という意気込みを見せてほしいですね。

闘争心あふれるプレーでチームを引っ張っていた頃とは少し違う、穏やかな表情で語った。今の代表チームにも、澤さんへの憧れを口にする選手は多い。大きな背中で、なでしこジャパンをけん引したその姿は、確実に後輩たちの道しるべとなっている。

◆澤穂希(さわ・ほまれ)1978年(昭53)9月6日、東京・府中市生まれ。91年読売ベレーザ(現日テレ)入団、93年に15歳で代表デビュー。6年間に及ぶ2度の米女子プロリーグ(現NWSL)を経験し、11年からINAC神戸。同年W杯ドイツ大会で優勝しMVP、得点王を獲得。同年度のFIFA女子最優秀選手賞を受賞。12年ロンドン五輪銀メダル。15年W杯カナダ大会準優勝。日本代表通算205試合83得点。15年8月に結婚し、同年限りで現役を引退。17年1月に長女を出産した。