名場面に名言あり。サッカー界で語り継がれる記憶に残る言葉の数々。「あの監督の、あの選手の、あの場面」をセレクトし、振り返ります。

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スピーカーから流れるジーコ監督の声。会場を埋めた報道陣が全神経を集中させた。ホテルの大会場で開かれた06年W杯ドイツ大会の日本代表メンバー発表。次々と名前が読み上げられる。最後に差し掛かった。

「ヤナギサ~ワ、タマ~ダ、マキ」

直後に報道陣から「おぉ~」と嘆声が漏れた。

淡々と23人を読み上げたジーコ監督は「おぉ~」の声を聞いた後、一瞬だけ目線を上げて会場の雰囲気を確認。再び視線を落とし、メンバーが書かれた紙をジャケットの内ポケットにしまった。

「サプライズ・マキ」誕生の瞬間だ。8年前のカズ落選、4年前の俊輔落選に次ぐ3大会連続の衝撃。会場で驚いたのは、報道陣だけではない。実は、それまでの代表発表は、前日までに監督がメンバーを日本協会に伝えていた。日本協会は、それぞれ選手の会見準備などもあり、前日夜には秘密厳守を条件に所属クラブに通達した。同時に、発表会場で配るW杯メンバーのプレスリリースを極秘裏に用意する。

しかしジーコ監督は「選ばれない選手もいる。最後まで考えたい選手もいる。事前に漏らすのはセレソン(代表選手)に失礼だ」と、23人を日本協会に渡さなかった。

そのため、日本協会は会見場の隣にもう1部屋借りて急きょ事務局を設け、コピー機を用意し、スピーカーから流れるジーコ監督の声を拾いながら、リリースを作成した。この急造事務局でも「おぉ~」の声が漏れたという。

ジーコ監督は、最後まで久保竜彦を呼びたかった。群を抜くバネと一気に爆発する瞬間スピード、あり得ない体勢でも左足で強烈なシュートが打てて、頭2つ抜け出るジャンプ力も魅力だった。

それだけに、腰痛や両足首痛などの負傷に苦しむエースをどうするか。指揮官は最後の最後まで悩んだ結果、久保と背格好が似ていて、この年に調子を上げていた巻誠一郎を選んだ。「サプライズ・マキ」の誕生だった。