日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(42)が2日、開幕から1カ月を戦った古巣阪神の現状を分析した。
一時期の貧打をサポートした投手力を絶賛し、貯金6で首位に立つチーム成績を「かなり上出来」と表現。状態が上がらない佐藤輝明内野手(25)の「片手空振り」増加を心配しつつ、「選手層の厚さが夏場以降、必ず差を生む」と首位固めに太鼓判を押した。【聞き手=佐井陽介】
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阪神は4月にあれだけ打てない時期を経験しながら、早くも首位固めに入っています。15勝9敗4分けの貯金6で2位巨人に3ゲーム差。この数字はかなり上出来といえるでしょう。
4月中旬に球団ワーストタイの10試合連続2得点以下と苦しみながら、この苦境を4勝4敗2分けで乗り切りました。ここまでチーム打率はリーグ4位の2割3分3厘。打線の状態が上がらない中でも、12球団一のチーム防御率2・03を誇る投手を中心にロースコアの引き分け、勝利に持ち込める底力はさすがです。
投手陣では新助っ人ゲラ投手に守護神としても計算が立ったことで、岩崎投手にかかる負担がかなり減りました。守護神クラスが2人いれば、どちらかを休ませたり、相手打者の右左やタイプによって8、9回を入れ替えることも可能になります。こちらも12球団断トツの救援防御率1・14を誇るブルペン陣はゲラ投手の加入でさらに層が厚くなり、先々を見すえても盤石と表現できます。
一方、打線では佐藤輝明選手の状態が少し気がかりです。現時点で3本塁打、15打点ながら打率は1割9分で、12球団ワーストの38三振。何より左手がバットから離れて片手になってしまっての空振りが増えている点が心配です。オープン戦ではそこまで崩される打席があまりなかっただけに、本人も苦しんでいるのではないでしょうか。
ただ、佐藤選手はオフから自分で打撃フォームに変化を与えて今季を迎えています。「打てないからなんとなく変えてみようか」と簡単に判断することだけは避けてほしいものです。そのままいくのか、元の形に戻すのか、新旧をミックスさせるのか。まずは練習してきた意識を貫いて、数カ月してから合う合わないを決める流れでも決して遅くはないはずです。
クリーンアップでいえば、開幕直後は打率1割台から抜け出せずにいた大山選手の不振にも注目が集まりました。ただ、大山選手はオープン戦の最後にコンディション不安を抱え、開幕前に「仕上げる」時間を作れていません。最初は感覚にズレが出るのも当然で、調整が2、3週間遅れたと考えれば、今はようやく状態が上がってくる時期。5月以降は一気に打ち始めるのではないでしょうか。
打線全体で見ても、開幕直後のようにスタメンの大半が不調という時期はシーズンを通してもなかなかありません。もともと阪神には「固定された1、2番」という強みがあります。俊足の近本選手、中野選手が出塁して相手バッテリーにプレッシャーをかける、という形が確立されています。野手陣が軒並み調子を取り戻せば、得点力は自然と上がっていくはずです。
開幕前、岡田監督と話をさせてもらう機会がありました。その時は「去年みたいにうまくはいかない」「1、2週間は様子見」といった話をされていました。阿部監督が就任した巨人の空気感、中日の得点力アップなど、監督はオープン戦の時点で他球団の変化に気づいていました。それだけに勝率5割で交流戦に入れば大丈夫、という感覚もあったのかもしれません。そう考えれば、昨季の4月終了時点の貯金3を上回る貯金6はやはり上出来です。
打てずにズルズル落ちてもおかしくなかった4月を首位でフィニッシュ。その上、3日巨人戦で今季初先発する19歳門別投手、肘や肩の手術からの完全復活を目指す高橋投手、長年ブルペン陣を支えた岩貞祐太投手らが2軍で続々と控える状況です。各チームに疲労が出始める夏場以降、選手層の厚さは必ず他球団との差を生みます。阪神がこのまま王者の戦いを続ける可能性は高そうです。(日刊スポーツ評論家)
◆1軍を狙うネクスト候補 先発では体調不良などで出遅れた2年目のビーズリーが好調で、2軍戦5試合で2勝0敗、防御率1・00で昇格スタンバイ。春季キャンプで1軍発進した西純、富田も虎視眈々(たんたん)で、トミー・ジョン手術から実戦復帰した高橋も状態を上げ、早期の支配下復帰を目指している。中継ぎ陣も経験豊富な岩貞や石井、湯浅らが昇格機をうかがう。野手ではミエセスが左脇腹筋挫傷から復帰し、4月29日のオリックス戦では決勝3ラン。井上も打率2割9分6厘と好調だ。