危険なジャガーが戻ってきた。サッカー日本代表FW浅野拓磨(26=ボーフム)が、絶体絶命の状況をひっくり返した。途中出場から、決勝のオウンゴールを誘った。W杯ロシア大会のアジア最終予選オーストラリア戦では先制点を決め、勝利に貢献。同じ会場、同じ最終予選、同じ相手を前にして、再び勝利をアシストした。9月の代表活動は故障の影響で戦列離脱。森保ジャパンの秘蔵っ子が、悔しさを晴らし、日本を救った。

   ◇   ◇   ◇

ジャガーが、襲われた。首根っこをつかまれ、背中を引っ張られ、ピッチに投げ飛ばされた。あおむけで大の字。幾人もの大人に、囲まれた。ほおをビンタされ、背中を、頭をたたかれた。もみくちゃにされたジャガーだが、自慢の牙で反撃することはしない。それどころか、口元は緩んでいた。浅野が、歓喜の輪の中心で笑っていた。

ジャガーが、暗雲を切り裂いた。小雨が降り出した1-1の後半41分。ペナルティーエリア外の左でボールを受けると、ワンタッチでエリア内に収めた。左に持ち込み、左足からGKの頭上を狙ったループのようなシュート。GKがはじき、クリアしようとした相手のキックは、ネットに吸い込まれた。「絶対に自分が試合を決めるという気持ちでピッチに入ったので、ゴールに入った時はほっとというかうれしいというか爆発させすぎてジャガーポーズするの忘れていました」。試合後のオンラインインタビューで、会心のジャガーポーズをお披露目した。

ジャガーが、有言実行の活躍で日本を救った。17年8月31日のW杯ロシア大会のアジア最終予選オーストラリア戦で先制点を決め、日本の2-0の勝利に貢献した。同じ会場、同じ舞台、同じ相手との一戦を前に「今回もやったるぞという気持ち」と燃えていた。引き分け以下で、森保監督の進退問題も発展しかねない崖っぷちの中、途中出場から8分後に、決勝のオウンゴールを誘発した。

ジャガーが指揮官の熱い思いに応えた。森保監督は9月での代表シリーズを終え、カタールから国内に戻ることなく、欧州視察を敢行。最大の目的は浅野の故障の状況確認だった。浅野は、今夏にドイツ1部ボーフムに加入。直後に内転筋に問題を抱え、9月の代表活動も不在だった。森保監督の下には、日本代表チーフアスレティックトレーナーの前田弘氏も同行。ドイツ・デュッセルドルフにあるJFAの拠点で、治療を受けるなど、森保ジャパンの秘蔵っ子はひそかに牙を研ぎ、この時を待っていた。

「今日の1勝がこれからの日本の勢いになればいいかなと思う。ここで誰1人満足している選手はいない。また厳しい気持ちを持って自分たちの1人1人の成長に向けて頑張らないとW杯につながらない。そういう気持ちで挑んでいきたい」。危険なジャガーが帰ってきた。【栗田尚樹】

【関連記事】W杯予選 日本ーオーストラリア詳細ライブスコア