日本に救世主が現れた。16日(日本時間17日未明)のW杯アジア最終予選で日本(FIFAランキング28位)がアウェーでオマーン(同77位)に1-0で競り勝った。

東京オリンピック(五輪)代表MF三笘薫(24=サンジロワーズ)が後半から途中出場で待望の国際Aマッチデビュー。一気に攻撃を活性化させ、同36分のMF伊東純也(28=ゲンク)の決勝点をアシストした。オーストラリアが中国と1-1で引き分けたこともあり、日本は年内最終戦で勝ち点を12とし、本大会出場権を獲得できる2位に浮上。崖っぷちだった森保ジャパンに、一筋の光が差し込んだ。

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一瞬でオマーンを混乱に陥れた。ピッチに入ってたった20秒。左サイドでボールを受けた三笘は、迷いなくドリブルを仕掛けた。DFはファウルで止めるほかなかった。「最初のプレーは大事。流れを持っていきやすい」。国際Aマッチデビュー約30秒で、0-0で折り返した日本の停滞感を吹き飛ばした。

後半開始から4分で、日本は前半のシュート数4に並んだ。全て三笘のドリブルがきっかけだった。何かが起こる-。そんな予感が漂いだした。決勝点は同36分。DF中山からパスを受け、鋭くボールを持ち出し、DFをかわして中央へクロス。MF伊東が決めた。

先に試合を終えたオーストラリアが引き分けたこともあり、日本は一気に2位に浮上した。おでこにかかる前髪も含めどこかクールな風貌の三笘は、物言いも冷静。大きな1点を演出し、「時間がたつにつれて相手も疲弊していた。ゴールを取れたのは必然の結果」と口にした。

川崎Fの育成育ち。高校卒業時に、トップ昇格(プロ契約)の誘いを断って筑波大に進学した。蹴球部での4年間で、何万回と1対1の練習を重ねた。陸上男子110メートル障害の元日本記録保持者で、香川や原口らがトレーニングに通った陸上部監督、谷川聡准教授のもと海外組の練習相手を務めたこともあった。自らも同氏に師事。緩急をつけた走り方、止まり方など「体を自在に操る方法」を学び、最大の武器、ドリブルに磨きをかけた。

主に、右足アウトサイド(足の外側)でボールを扱いながら独特のテンポを刻むドリブルは、一部で“ヌルヌルドリブル”と呼ばれる。スピードでぶち抜くタイプではない。体の真下にボールを置いて細かいタッチで運び、上体を起こして相手を見ながら、重心の逆を突いて進む。プロ入り後は「ボールを失うリスクが大学より高くなるから」と、スピードを7~8割に抑えて次のプレーを判断するスタイルも体得した。

鮮烈なA代表デビューで、崖っぷちの日本を救い、新たな希望となった。それでも「W杯のことは考えていない。残り4戦、勝ちきることだけ。周囲の評価が変わるとは思っていないし、より競争が激しくなるので勝っていきたい」とおごりはない。足に吸い付くようなボールさばきで、地に足も着いた頼もしい24歳が、得点力不足の日本を変えていく。【杉山理紗】

<三笘薫アラカルト>

▽ポジション 高1まではボランチやトップ下。左サイドに転向したことで、ドリブルを磨いた。

▽スピードとスタミナ 筑波大蹴球部入部時の体力テストで、30メートル走1位。川崎Fの合宿では、2年連続でシャトルラン(短距離の往復持久走)1位。

▽ゼミ 筑波大蹴球部・小井土正亮監督の「サッカーコーチング論研究室」。卒業論文のテーマは「サッカーの1対1場面における攻撃側の情報処理に関する研究」。

▽プロ1年目 新人最多タイの13得点、J1最多12アシストで、ベストイレブン選手間投票で最多得票。

▽ジョーカー 昨季30試合中19試合、13得点中8得点が途中出場から。オマーン戦も「こういう起用は想定内」と焦りなし。

▽幼なじみ 東京五輪サッカー女子日本代表MF三浦成美。実家が近く幼稚園も一緒で、幼少期は家族ぐるみでキャンプに行った。

▽お隣さん 俳優・松重豊。同氏が川崎F応援番組で、三笘が幼少期にマンションの隣の部屋に住んでいたと明かす。

▽三笘警察 名字を、草かんむりの「苫」と漢字を間違えられがち。活躍した試合後のSNSには漢字の間違いを正すため、パトロールする“三笘警察”が現れることも。