日本サッカー協会はW杯南アフリカ大会後の退任が確実な岡田武史監督(53)の後任候補として、元アルゼンチン代表監督のホセ・ペケルマン氏(60)をリストアップしていることが21日、明らかになった。すでに就任に支障がないのかなど身辺調査に入っており、今後、条件面などの本格交渉に入る可能性が高い。日本代表は6月14日にW杯1次リーグ初戦でカメルーンと対戦するが、決戦を前に日本協会は知名度、実績ともに抜群の名将の獲得に乗り出すことになった。

 後任監督人事に取り組んできた原博実強化担当技術委員長はこの日「まだ何にも決まっていないが(ペケルマンは)大枠のリストには入っている。他にも候補は何人かいる。リスクマネジメントはするけど、今は岡田ジャパンをバックアップすることがすべてだし、後任監督が決まるのはW杯後です。そんなに焦ってはいない」と言った。正式交渉を控えているが、代表チームがこの日からW杯南アフリカ大会へ始動しただけに、最大限に岡田ジャパンへの配慮を見せた。

 ペケルマン氏をリストアップしたところに、日本協会が目指す根本的な方針が透けて見える。現在の日本代表は世代によってチーム力に大きな差がある。タレントが豊富な世代は「黄金世代」といわれ、ユース時代から国際大会で実績を残してきた。一方で「谷間の世代」といわれる世代は、国際経験も乏しかった。

 そうした世代間格差を打破するのにペケルマン氏は最適と言える。95年から01年までワールドユース選手権(現U-20W杯)でアルゼンチン代表を率いて4大会連続出場し、3度の優勝を成し遂げた。その間、MFリケルメ、FWサビオラら代表チームでも骨格をなす選手を育て、実績を積ませるなど、継続性、成果という点では折り紙付きの結果を残している。

 06年W杯ドイツ大会では、アルゼンチン代表監督として当時18歳のメッシを代表に抜てき。1次リーグを圧倒的な強さで突破した。準々決勝で地元ドイツにPK戦の末に惜敗したが、90分間の試合では1度も負けなかった。代表監督としての評価が下がることはなかった。

 日本協会は2022年のW杯本大会招致を目指しており、犬飼会長は常々「22年に単独開催となれば、その時に主力になるのは今の小学生だ。彼らの育成はサッカー界の大きな課題だ」と、若年代の指導者の改革を強く訴えてきた。ペケルマン氏はそうした大きな流れにもマッチし、中長期的な強化・育成という観点からもベストな人選と言える。

 これまで日本協会は後任監督の条件として(1)オシム前監督→岡田監督と続いた連動性を重視したサッカーの継続(2)日本人らしいサッカーの構築の2点をポイントに掲げてきた。ペケルマン氏のサッカーは、中盤での華麗なパス回しを根幹に、全員の連動性を重視し、ファンを楽しませる。オシム前監督の急病により、世界的な名指導者による「日本人らしいサッカー」の構築は道半ばで閉ざされてきただけに、名将ペケルマン氏への期待は大きい。

 すでに始めている身辺調査では、来日への大きな問題はない。4月末にはペルー代表監督を、5月上旬にはアルゼンチンの名門ボカ・ジュニアーズのオファーを断っている。本人は欧州のクラブへの関心も示しており、原委員長も「あれだけのクラスなので、声がかかるのは当然。ただ目指すならあのクラスだ」と言った。名将ペケルマン獲得へ、今後本格的に動きだす。