伝家の宝刀が、チームを救った。

 前身のナビスコ杯を含め最多6度の優勝を誇る鹿島アントラーズを2戦合計5-4で破り、クラブ初のルヴァン杯4強入りを果たしたベガルタ仙台。3日の敵地での準々決勝第2戦は2-3と逆転負けを喫したが、MF三田啓貴(26)の前半6分の直接FKで先制、王者に大きな重圧をかけた。

 「決めないといけない状況だった」

 その言葉には満足感が漂っていた。

 名キッカーの一言で奮起し、三田は今季から居残りでFK練習をこなしている。仙台1年目のシーズンが終わり、迎えた昨オフ。元日本代表で前仙台の鳥栖MF水野晃樹(31)からこう言われた。

 「練習をしないと、うまくならない。毎日10本は蹴ろ! 」

 天皇杯は2回戦でJ3グルージャ盛岡に敗れた。約1カ月間、通常練習をこなした。三田の前所属先の東京では、考えられないほど長いオフだった。そんな中、水野は技術のある後輩に、仙台再建を託したのかも知れない。

 三田は「(昨季最終節の)磐田戦が終わって、チームは普通の練習しかしてなかった。その中で、狙う位置とか、軌道、入り方とか教えてもらった」と感謝する。先輩の言葉を胸に、練習に取り組んだ。

 水野がチームを去り、迎えた今季。リーグ5位以内を目標に掲げた渡辺晋監督(43)から「昨季の直接FK得点王は2点だ」とハッパをかけられた。三田が2点を自ら生み出したら、トップ5に大きく前進できる。指揮官の期待の表れだった。

 シーズン序盤の4月22日広島戦で、直接FKを沈めームの連敗を3で止めた。FW西村拓真(20)は三田のFKの特長について「縦回転が増えた」と証言。相手の壁を超えてすぐ落下するため、ゴールが生まれやすいと分析した。

 周囲の信頼を得て、チームの顔になった三田。普段は明るいムードメーカーだが、「こんな順位じゃだめだよ」と責任感も併せ持つ。現在リーグ12位。第5節川崎F戦を最後に、一桁順位すら遠ざかっている。同杯4強決定後、「まずはリーグ戦一桁順位。目標はトップ5なので」と気持ちを切り替えた。

 奇しくも次戦は10日のホーム、サガン鳥栖戦。水野の前で、最高の恩返し弾を期待したい。【秋吉裕介】