頼もしかった。鹿島アントラーズのMF三竿健斗は幾度となく、危険を察知してボールを奪った。仲間を何度も落ち着かせようとしていた。「ジーコさんに言われたのは『引退した後にその選手が何をしたかは、タイトルを取った回数でしか評価されない』と。自分が試合に出て取れた1個目のタイトルなので、本当に、非常に大きなタイトルだと思います」と喜びに浸った。

2016年のチャンピオンシップで鹿島は優勝したが、三竿健はベンチ外だった。仲間が喜んでいる中、1人悔し涙を流していた。そのとき、当時の柳沢敦コーチに「次はお前がピッチに立って優勝する番だぞ」と言われた。昨年はそれを実現するチャンスだった。

だが、Jリーグ最終節のジュビロ磐田戦で引き分けに終わり、川崎フロンターレに逆転優勝をさらわれた。「去年、最終節ピッチに立っていて何もチームに影響を与えることができなかった」。

ヤマハスタジアムで崩れ落ちていた際、1人の選手に肩を抱かれた。それは、磐田のMF中村俊輔だった。

中村も横浜F・マリノス時代の13年に、優勝に王手をかけていながら2連敗し、9年ぶりのリーグ制覇を逃した経験があった。同じ痛みを知る希代のレフティーに優しく起こされた後、声を掛けられた。「すごい短い言葉だったけど、すごい深い意味がある。僕の宝物にしておくので、みんなには言えませんが」。

前を向き、挑んだ今季。一皮むけ、日本代表にも定着した。そしてアジア王者のタイトルをつかんだ。

「2年立って、こうやって優勝できたのは本当にうれしかった。今までにないくらい最高でした」。大音量の会場で声を出し尽くし、もはや枯れに枯れてほとんど聞こえない声で、三竿健は喜びを口にしていた。