セレッソ大阪やコアなサッカーファン以外には、なじみのない顔と名前だったかもしれない。

6日の横浜Fマリノス戦でC大阪の小菊昭雄コーチ(45)が、J1リーグ戦で初めて指揮を執った。レビークルピ監督が、新型コロナウイルスに感染したチーム関係者の濃厚接触疑い者(Jリーグ独自の基準)に指定されたため、同コーチが当日に急きょ代行指揮をすることになった。

「コギク」という名前を聞いても、ピンとこなければ、あのMF香川真司(ギリシャ1部PAOK)をC大阪にスカウトした人物といえば、分かる人もいるのではないか。香川が高校で所属していたFCみやぎバルセロナ(仙台市)時代に一目ぼれし、大阪へ呼び寄せた運命のスカウトだ。

この日の横浜戦はほぼ互角に戦ったが、コロナに感染した選手1人を含め、多くの主力が欠場。それでも響き渡る声で指示を出し、レビークルピ監督の日本人一番弟子の存在を示した。

「監督が積み上げてきている守備は、誰が出ても変わりなく、規律を守って表現できた。課題は攻撃のところ、そこはチーム、個人としても、レベルアップしていけるように取り組んでいきたい」

レビークルピ監督のC大阪での第2、第3次政権下でもコーチを務め、12年12月の天皇杯では同監督が家庭の事情でブラジルへ一時帰国した際、代行指揮した経験もあった。C大阪一筋で15年以上もトップチームで指導を重ね、近い将来の監督候補に期待される。

この日の会見でも背筋をピンと伸ばし、取材対応では「ありがとうございました」の言葉や、コロナ禍のナーバスな質問には「この場では回答を差し控えさせていただきます」と、丁寧で実直な横顔をのぞかせた。香川を口説き落とせたのも、その誠実な性格があったからだと聞く。

この2月、記者は宮崎キャンプで久々に会話できた。過去2年間はスペイン人のロティーナ監督が5、4位と成績を残した。今度は、またもブラジルの名将の下で勉強できる小菊コーチは言った。

「決してロティーナ監督時代の財産を捨ててしまうのではなく、あの手堅い守備を継続させながら、クルピさん独自の攻撃力を注入しています」

その通り、今季のC大阪は久々に強くて、かつ魅力あるサッカーを実践している。その環境で指導できるのは大きな財産だ。香川を見いだした小菊コーチは、いつか来る新たな勝負の日へ、準備を続けている。【横田和幸編集委員】