開催中のサッカー欧州選手権でデンマーク代表MFクリスティアン・エリクセン(29=インテル・ミラノ)が12日の試合中に突然倒れるアクシデントが起きた。その場で心肺蘇生処置を受け、一命を取り留めた。仲間や医療スタッフの素早く的確な救命措置が、世界的スターを救った。この出来事は、多くのことを教えてくれた。競技や年齢を問わず、誰にでも起こり得る現実。突然の事態に直面した時、私たちにできることは? 対処法を、東邦大学医療センター大橋病院循環器内科の葉山裕真医師(33)に聞いた。【取材・構成=盧載鎭】

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ピッチに突然倒れたエリクセンをチームメートが救った。体を横にするなど機敏に対応。主審も医療スタッフを速やかにピッチへ呼び、心肺蘇生処置につなげた。後日、代表チームの医師は「一時、心臓が止まっていた」と明かした。このような出来事は、トップアスリートだけに起こることではない。循環器の専門医に急なアクシデントへの対処法を聞いた。

葉山医師 練習中や試合中に仲間が急に倒れた時は、まず意識があるかどうかを確認することが大事です。すぐに応援や救急要請を行い、医療スタッフや救急車が到着するまで、いかに応急措置ができるかが重要です。マニュアル通りですと、意識を確認してから、首の頸(けい)動脈で脈を触れながら、胸の動きも見て呼吸の有無も同時に確認。これらがなければ、直ちに心臓マッサージをすることです。ただ、突然アクシデントに直面したら、冷静に対処することは難しいでしょうし、慣れていなければ脈を確認することも難しいかと思います。

では、医療スタッフや救急車が到着するまで、具体的に何をすべきか-。

葉山医師 まず「大丈夫ですか?」と大きい声で話しかけながら、肩を強くたたいてください。反応がない時は頸動脈を確認しますが、脈がない(と感じた)場合は、すぐ心臓マッサージを開始してください。一般的に呼吸が止まって15分、心臓が止まって5分程度で脳死状態になると言われています。そのため、呼吸を維持するより、まずは心臓を体の外から押してでも動かし、さらにAED(自動体外式除細動器)などの除細動器で、いち早く正常に戻すことが重要です。1分間で100回のテンポでやりますが、1サイクル30回で4、5サイクル続けてください。重要なのは、脈をこまめに確認しながらではなく、AEDが到着するまで心臓マッサージを続けることです。場合によっては肋骨(ろっこつ)が折れてしまうほど強く押しますが、相当きつい動きになるので、複数人が交代で続けることが重要です。再び心臓の動きや呼吸が戻り、意識も戻ると「痛い」とか「やめて」と言葉を発したり、心臓を強く押される痛みで、マッサージする人を振りほどこうとすることがあります。言葉を発したり、体を動かせば、心臓が再び動きだしたバロメーターと言えます。

AEDが常備されている施設なら、いち早く使用することが重要になる。止まっていた呼吸、心臓が動いたとしても回復時間によって、後遺症があることがある。

葉山医師 AEDの使用法は、機械から自動的にアナウンスが流れるようになっています。説明書も付いているので、難しい作業ではないのですが、緊急事態に冷静にできる人は、そういないはずです。普段からやり方を認識しておくことが大事です。

エリクセンは回復し退院し、自宅で家族と過ごしている。チームもエリクセンのためにと、勝ち上がっている。デンマーク・サッカー協会によると植え込み型除細動器(ICD)を利用することになったという。

葉山医師 ICDは5センチ四方程度の大きさの機械を皮膚の下に埋め込み、再び重篤な不整脈が出現したら自動的に電気ショックを与える装置となります。手術直後はICD装置を挿入した創部が開いたり、心臓内のリードが外れてしまう可能性があるので、しばらくは過度な運動や、手を上げたりする動作は控えるように指導しています。プロスポーツ選手の場合、その後の現役復帰は難しいかもしれません。ICDは皮膚のすぐ下に機械があるため、外部の衝撃で損傷や誤作動する可能性があり、特に身体接触の激しいサッカーでは、そのリスクは高いと考えます。

突然のアクシデントでも、素早い対処で命を救ったり、後遺症を最小限にとどめることができる。少しの学びと知識、理解で、より安全にスポーツを楽しみ、安心安全な生活を送ることができるはずだ。

◆葉山裕真(はやま・ひろまさ)1988年(昭63)1月6日生まれ。12年に東邦大学医学部卒業。国立国際医療研究センターなどを経て、現在東邦大学医療センター大橋病院に勤務。循環器内科専門医。

◆参考 心肺蘇生法の手順などは日本医師会の公式サイトを参考にさせていただきました。