国見(長崎)が、4237校の頂点に立った。草津東(滋賀)を3―0と完封し8年ぶり4度目の優勝。総体、国体に続いて「3冠」を達成した。エースのMF大久保嘉人(3年)は前半11分に先制点をマークし、後半33分には20メートルのダメ押し弾を突き刺した。超高校級司令塔は通算8得点で、総体に続く得点王を獲得。高校サッカー界の名将、小嶺忠敏総監督(55)も、同校校長として初めて宙に舞った。

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8年間の思いが、一瞬にしてあふれ出た。勝利を祝福する国見の校歌が国立競技場に流れると、総体、国体でも泣かなかった小嶺総監督の目じりに刻まれたシワに涙が伝った。「うっときました」。閉会式を終えた選手に囲まれた。「冬の選手権に回してくれ」と固辞し続けた胴上げ。ダンプと呼ばれた巨体が、右手を突き上げ3度宙に舞った。

優勝常連だったが、最近はチームの核になる選手が少なく準決勝にさえ進出できない大会が続いた。自費で購入したマイクロバスで練習試合のために50万キロ以上も走破したが、今はハンドルを握る回数も減った。特に教頭に就任した4年前からは出張や公務が増えてグラウンドに顔を出せる時間も減り、初戦突破が精いっぱいだった。さらに昨年4月には校長に昇進。他部の活動も考慮して、総監督という立場になった。

「国見だったから良かった。私が引っ張ってきた子供たちを置いていくのは申し訳ない。よその高校だったら辞めてました」。昨年からは試合前にしか練習を見られなくなった。そこで練習開始1時間以上前にコーチを校長室に呼び、ミーティングを重ねた。「言うことをピシッとやってくれる。やっぱりスタッフです」としみじみ言った。

それでも、グラウンドに出られる時は、選手より早く行くように心がけた。6日の練習でも、遅れてきた生徒の頭にボールをぶつけていた。「うちの監督はすごいという気持ちを持たれないと。子供たちと競争ですよ」と声に力を込めた。

96年にはJリーグ監督もできるS級ライセンスを取得したが、「国見のサッカーは時代遅れ」が口ぐせ。田舎の古くさいではなく、流行にとらわれないという意味だ。「(トルシエ監督の)フラット3もいいが、選手の長所を見極め、能力に合い、最大限に生かせるサッカーをすることを信念にしている」。俊足のFW松橋にはドリブル突破、変幻自在のMF大久保に関してはアイデアを尊重した。

「きょうは相手の裏を突き、外から中に放り込んでシュートを打つ自分たちのサッカーを繰り返した。それで負けたら仕方ないじゃないですか」と言った。しかし優勝の余韻に浸るのは数時間。競技場を出ると校長の顔に戻り、きょう9日の始業式に間に合うよう羽田空港に向かった。【飯田玄】