J1最多得点記録(191得点)を持つセレッソ大阪の元日本代表FW大久保嘉人(39)が今季限りでの引退を決断した背景は、悩み抜いた末のことだった。22日に大阪市内のホテルで行われた会見で、ここ数日は葛藤していたことを明かした。

「ふと、車の中だったり、家に帰って1人の時間になった時に『引退しようかな』と。苦しい時間の方が非常に多くて。それを見せないようにしないといけないと、ずっと思っていた。本当に細い糸がギリギリつながっている状態でやっていました。その中で、1人になった時に『ここで辞めた方がいいのかな』とふと思い、その場ですぐに『今だ』と、妻に伝えました」

妻莉瑛さんに電話をしたのは、11月16日の夜のこと。その後、横浜の自宅に戻って4人の息子たちにも引退を報告したという。

その1週間ほど前には、クラブ側から来季の契約延長の打診を受けていた。周囲には、J1通算200得点へのこだわりとともに「最後にもう1年、来年もやります」と漏らしている。

引退が発表されたのは19日で、わずか数日で事態は急変した。

まだゴールを追い続けたいという強い思いがある一方で、精神状態は限界に近づいていたのかも知れない。手を抜くことを知らず、グラウンドに立てば常に全力。そんなプレースタイルだからこそ「細い糸がギリギリでつながっている状態」というのは紛れもない本音だった。

かつてC大阪のエースとして活躍し、今は大久保の代理人を務める西沢明訓氏(45)はこう明かしている。

「今シーズンのプレーを見ていても、ルヴァン(杯)決勝、先日の川崎戦でもまだまだやれるという思いはある。でも、必要とされる中で自分で決断して引退する。そういう選手は限られるので、嘉人の決断を尊重したい」

昨季はJ2の東京Vで無得点に終わった。「もう大久保は終わった」との声も聞こえてきた中で、今季から古巣C大阪に戻り、ここまでリーグ6得点。特に開幕戦からは5戦5発で、序盤戦の上位争いの原動力にもなった。

「逆境に立ち向かってきたサッカー人生。このままでは、はい上がれないと思った時には、自分にプレッシャーをかけることを発言することもありました」

まだまだやれる-。

評価を急変させたのは、反骨心からだった。

必要とされるうちにユニホームを脱ぐ。それが、大久保にとっての美学だった。【益子浩一】