【ドーハ(カタール)15日】「ドイツキラー滉」が、「麻也コラーゲン」で戻ってきた。

9月の練習中に右膝内側側副靱帯(じんたい)を部分断裂した日本代表DF板倉滉(25=ボルシアMG)が、14日に代表に合流。W杯を諦めかけていたリハビリ中、DF吉田麻也(34=シャルケ)からテキーラショットならぬ、コラーゲンショットの差し入れがあったことを明かした。17日はW杯前、最後の実戦となる親善試合カナダ戦(UAE)。本番の23日ドイツ戦へ向けて、試合勘をチャージする。

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秋のドイツ。リハビリ中の板倉は自宅で静かに目を閉じていた。世間は世界最大規模のビール祭り、オクトーバーフェストの最中。呼び鈴が鳴った。扉の前に吉田がいた。何か持っている。ビールではなかった。コラーゲンショットだった-。

約1カ月前の肌寒い日を思い返していた。気候が一転し、汗ばむドーハ。板倉は「それを飲んでいる時が一番膝が治っているなと感じた(笑い)」と笑った。テキーラショットのような少量で、コラーゲン成分の入ったドリンク。吉田は「靱帯の修復とかリカバリーに使うもの」と、照れくさそうに説明した。

代表でCBを争う2人だが、吉田に邪(よこしま)な気持ちはなかった。「別にそれの結果で(板倉)滉が出て、活躍してくれれば、僕にとっては最高のストーリー。正しい競争があること自体がチームにとって一番いい状態なんじゃないかなと思います」。真っすぐだった。

板倉にとって、膝のけがは初めて。「W杯は厳しいんじゃないかなというのは、思いました。ギリギリ間に合うかも、という話を受けてリハビリをやっていく中で、もう1段階良くなってほしいところが進まないとか」。キャプテンからの粋なプレゼントは、いら立ちに似た思い、消化できない痛みを和らげてくれた。クラブ、日本協会の支えも背中を押してくれた。11日の代表合流前最後の試合で、2カ月ぶりに実戦復帰。17日の親善試合カナダ戦は、本番に向けて最後のテストの場となる。「僕自身は万全の状態で、と思っている」。試合感覚を戻し、元気な「板倉滉」を示す。

その姿を届ける先は、敵国にも-。8月27日バイエルン・ミュンヘン戦。相手の10番でドイツ代表FWサネを封じてみせた。まずペナルティーエリア内でシュートを試みた足元にスライディング。かわされたが、あきらめずに滑った状態で反転して決定機を防いだ。ブンデスリーガで2年連続のデュエル王・MF遠藤は脳振とうの診断を受け、状態は不透明。CB、ボランチもこなすドイツキラー板倉への期待は大きい。「この痛みは全然あってもいい。問題ない」。ベスト8を達成し、次は歓喜のテキーラショットを吉田、そして皆に振る舞う。【栗田尚樹】

〇…板倉復帰の背景には万全の医療体制があった。最新鋭の医療設備を持つボルシアMGは、クラブハウスだけでなくスタジアム付近にもリハビリができる施設を有する。板倉も「負傷から30分以内にMRI検査もできた」と驚いた様子。日本協会もデュッセルドルフあるオフィスにトレーナーを常駐させ、チームの活動を終えた午後はオフィスでリハビリを重ねることができたという。クラブと日本協会のサポートに「すごく助かりました」と感謝した。

◆板倉の負傷経過 9月12日のボルシアMGの練習中に右膝内側側副靱帯を部分断裂。同14日に板倉は自身のインスタグラムに、松葉づえをつく写真とともに「やるよ俺は!」と投稿した。10月上旬にはランニングを再開。順調な回復ぶりを見せ、今月11日のブンデスリーガ・ドルトムント戦で約2カ月ぶりに公式戦へ復帰。後半43分からピッチに立った。同戦後には再びインスタグラムに「戻ってこれました! もっと上げてきます!」とつづった。

▽板倉滉(いたくら・こう)アラカルト

★生まれ 1997年(平9)1月27日生まれ、横浜市出身。家族は両親と妹。

★プロフィル 身長186センチ、体重75キロ。利き足は右。チャームポイントは「美脚」。センターバックとボランチをこなす。

★経歴 川崎Fの下部組織で育ち、15年にトップ昇格。18年に仙台に期限付き移籍。19年1月にマンチェスター・シティー完全移籍も、フローニンゲン、シャルケに期限付き移籍。今年7月、ボルシアMGに加入。

★代表歴 昨夏の東京五輪に出場。同メンバーを中心に構成された19年のコパ・アメリカでA代表に初選出。国際Aマッチ12試合1得点。

★さぎぬまFC 小学生の時代に27期として所属し、26期にはMF三笘、27期にはMF田中、さらに17期にはGK権田とW杯メンバーがずらり。

★あこがれ 目標は1次リーグで対戦するスペインの中心選手セルヒオ・ブスケツ。1日だけ誰かになれるなら、ネイマール。

 

○…ポジティブ麻也で行く。13日にドーハ入り。翌14日からジョギングで先頭を走るなど、合流初日からチームを引っ張った。今回はメンバー19人が初めてW杯に臨むが「初出場のいいところは絶対ある。勢いの良さを引き出していけるように」と前向き。本番までの準備期間が短いことも「必ずしも自分たちにとってマイナスな要素だけではない」。合流前の12日にはバイエルン・ミュンヘンと対戦。初戦ドイツのMFキミッヒとも初めて対し「こういうタイミングで球出してくるなとか、こういう体の向きでボール受けてとってくるなとか、分かっただけでもすごく大きかった」と全てをプラス材料にする。