【ドーハ(カタール)10日(日本時間11日)=磯綾乃】前回王者のフランス(FIFAランキング4位)が優勝候補のイングランド(同5位)との接戦を制し、史上3カ国目の連覇へあと2勝とした。1-1の後半33分に、36歳のFWオリビエ・ジルー(ACミラン)が決勝ゴール。自身が決勝トーナメント1回戦で樹立した、フランス歴代最多記録を53得点に塗り替えた。FWカリム・ベンゼマ(34=レアル・マドリード)が大会直前に離脱するなど主力の欠場が続く中、25歳で代表デビューした遅咲きのストライカーが連覇への推進力となっている。

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13歳下の怪物から手荒い祝福を受けた。ジルーは、にやりと笑うFWエムバペから、何度も右ほおをはたかれた。1、2、3…と続いて7回も。悪ガキのような笑顔につられるように、端正な顔立ちも喜びに包まれた。

「信じられないような気分だ。今夜は最高の試合だった」

PKで追いつかれ1-1のまま迎えた後半33分、左からのクロスに勢いよくヘディングで飛び込んだ。「押し込まれる展開で、数少ない決定機を逃したが、もう1回チャンスがあるかもしれないと思った」。4日のポーランド戦に続く今大会4点目を決めた。自身の記録を更新する代表通算53得点目は、チームを勝利に導くゴールとなった。

31歳だった前回ロシア大会は献身的な働きで優勝に貢献するも、全7試合の出場でノーゴールに終わった。今大会はベンゼマが開幕直前にけがで離脱。中盤のカンテ、ポグバ、DFキンペンベと前回メンバーの欠場が相次ぐ中、ピンチをチャンスに変えた。

「イングランドの若い世代のポテンシャルは分かっていた」。相手の前線には21歳のサカ、22歳のフォーデン。その後ろにも23歳のライス、19歳のベリンガムと若い逸材が並んでいた。ジルーが代表デビューしたのは11年、25歳の時だった。その日から11年で国際Aマッチ118試合に出場。才能が開花する時に遅すぎることはないと、大舞台で躍動する姿が証明している。

主力の不在も前回王者には心配いらずだった。エムバペや22歳のチュアメニらの才能を生かし、自らもベテランの味を生かされている。「非常に誇らしい。我々は今夜、素晴らしいパフォーマンスを披露した」。5ゴールのエムバペに続いて、アルゼンチンFWメッシに並び、これで大会4ゴール目。得点王の称号も夢ではない。

もちろん、一番に追い求めるのは2度目の頂点。「このチームはそこに到達する価値がある」。脂が乗り、勢いに乗ったストライカーとともに、一気にかけ上がる。

◆オリビエ・ジルー 1986年9月30日生まれ。05年にフランス1部グルノーブルでキャリアをスタートし、12~18年はプレミアリーグのアーセナルでプレー。その後、チェルシーに移籍し、21年からセリエAのACミランに所属。11年11月にA代表デビューを果たし、12年2月に初得点。W杯は14年、18年に続き3度目。15年に英ブックメーカーの「プレミアリーグでもっとも格好良い選手」に選ばれたこともある。193センチ、91キロ。

○…エムバペは得点こそなかったが、随所に存在感を見せた。前半17分のMFチュアメニの先制点は、中央にいたFWエムバペが起点。自らも抜群のスピードとドリブルで何度も敵陣を切り込み、観客を沸かせていた。1次リーグでは取材エリアで沈黙を貫いていたエムバペだったが「イングランドはとてもいいチームだった」と話し、満面の笑みでスタジアムを後にした。

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