ESPN電子版は、22年ワールドカップ(W杯)のトレンドという記事を掲載し、今大会の戦術のトレンドについて考察した。

中でも興味深かったのが、ボール保持率が高いことが今まで以上に勝利に結び付かなくなっているということ。

W杯カタール大会では32チーム中、15チームがボール保持率51%以上を記録したが、そのうち9チームしか決勝トーナメントに進めなかった。ドイツとデンマークはともに保持率59.8%で1次リーグ敗退となった。

一方、保持率38%に満たなかった6チームのうち4チーム(モロッコ、日本、ポーランド、オーストラリア)が決勝T進出を果たした。

保持率50%以上のチームの1試合あたりの勝ち点は1.4点で、50%を下回るチームのそれは1.2点。ほとんど変わらないことも分かった。

ESPNは「日本-ドイツ戦など“まぐれの勝利”もあるので一慨には言えないが」とした上で「低保持率チームの勝利がすべてまぐれとはいえない。例えば決勝T1回戦のモロッコ-スペイン戦は、スペインが保持率76%と大きく上回ったが、シュートは13本にとどまり、※xGの合計は1だった。一方保持率24%だったモロッコはシュートを6本放ち、xGの合算は0.7と大差ない数字が出た」と説明している。

スペインのロドリは試合後「モロッコは何もしてこなかった」と話したが、実はスペインも「ほどんど何もしなかった」のだ。

またモロッコはポルトガルとの準々決勝で保持率は27%だったが、9本シュートを放ち、xG合計は1.4。ポルトガルは12本シュートを放ってxG合計は0.9と相手に上回られ、もっとも可能性の高かったシュートでも0.18xGでしかなかった。ポルトガルが負けるのはある意味当然だったのだ。

欧州チャンピオンズリーグなどクラブ最高峰の戦いではいまだにトップクラブはボールを保持し、相手を圧倒して勝つことが多い。だが、年間を通じてチームで練習ができない代表での試合などではボール保持率が勝つ確率に直結することは今後も減っていくのかもしれない。

 

※xGとはゴール期待値のことで、それぞれのシュートが成功する期待値を0~1=0%~100%で示すもの。0は得点するのが不可能なシュート、1は百発百中で成功するシュート。チームのその試合でのxGを算出する場合は各シュートのxGを加算する。

Optaデータを提供しているスタッツ・パフォーム社は「ゴール期待値の算出には、シュートを放った位置やゴールまでの角度と距離、また、シュートの前のパスの種類(クロス、スルーパスなど)など、さまざまなデータが使用されています。さらに2022年春、Qwinnと呼ばれるStats Performの人工知能(AI)が、従来の5倍以上のデータを使用し、過去の試合から50万本以上のシュートを分析することで、ゴール期待値の算出に使用するモデルの正確性が向上しました」と説明している。