ロシアの守備戦術が「無敵艦隊」スペインを駆逐した。

 W杯予選から1次リーグまでは4バックで戦うことが多かったロシアだが、今回はスペイン対策として5バックで臨んだ。

 5-4-1の並びで引いてブロックをつくり、前線から最終ラインまで15メートル~20メートルの間にフィールドプレイヤーが入るコンパクトな組織を作り、スペインの攻撃サッカーに対応していた。

 一貫した横並びで引いてスペースを消すだけではなく、ブロックを作りながらも相手ボールホルダーには積極的にプレッシャーを与え、チャレンジアンドカバーが徹底されて、うまく陣形を変化させながら対応していた。まるで「要塞」だった。

 スペインからすると、DFラインの5人と中盤の4人の間のスペースを上手く使ってコンパクトな陣形を保つロシアを崩しにかかりたかったが、そのスペースで有効的にボールを受けることが出来ていなかった。

 1トップのディエゴコスタの近くにアセンシオ、シルバが入ることができず、逆に自陣に向かって中盤の選手がボールをピックアップしに降りて来るプレーに終始。MFイスコがブロックの外でドリブルして相手を剝がそうとしたが、有効な手だてにはならなかった。ボールは足元から足元へ渡るばかりで、背後を突く動きが乏しい。時間の経過とともに、ロシアはスペインのボール回しに目が慣れ、集中力が増してプレーしているように見えた。

 10年南アフリカ大会で優勝した当時のスペインに比べ、ダイレクトパスが少なく、全体的なテンポが上がらない。当時はゼロトップのような形でFWのビジャが流れてプレーする。そこへ2列目の選手が入ってくる動きがあり、流れるような組織のパスワークの中にドリブルがあった。

 今回は1トップのディエゴコスタが真ん中に構え、前線での流動性がなく、相手の嫌なところを突けていなかった。個々がボールを持つ時間が長く、ドリブルから攻撃が始まるような印象を受けた。それにサイドからのクロスボールを入れても、ロシアのセンターバック3枚にしっかりはね返されていた。リスタートを速くするなど、相手のブロックができる前に早い攻撃を試みているシーンもあったが、そこからスピードが上がらずボール保持に終始した。どこかでもう少しスピードアップする工夫が必要だった。スペインとしては前半終了前にPKでロシアに得点を許していなかったら、また違った展開になっていたのではないかと思う。

 ロシアは守備重視の戦い方がしっかり確立されており、自分たちの戦い方に自信を持っている。FWも大柄で前線のターゲットマンとなるジュバから、スピードがあり個人技に優れたスモロフへと異なる2人をチェンジすることで、試合のテンポを変えられる。強敵スペインを乗り越え、開催国という利点もある。伏兵ロシアが怖い存在になった。(永井雄一郎=プロサッカー選手、元日本代表)