「無敵艦隊」スペインが開催国ロシアに1-1からのPK戦で敗れた。ボール保持率74%、1137本のパスを試みて91%の1031本を通した。シュート25本も相手の4倍以上、ロシアのゴールに迫ったが、序盤に相手のオウンゴールで得た1点に終わった。

パスを出すスペインのアンドレス・イニエスタ(撮影・PNP)
パスを出すスペインのアンドレス・イニエスタ(撮影・PNP)

 08年欧州選手権、10年W杯、12年欧州選手権で優勝したが、前回の16年W杯は1次リーグ敗退、今回も決勝トーナメント1回戦で敗れ、すっかり昔の「欧州の中堅チーム」に戻った感じだ。10年大会の優勝を除けば、W杯の最高成績は50年大会の4位。1次リーグ敗退か16強、よくてもベスト8。優勝経験国となった今でも「スペインが強い」には多少の違和感がある。

 もともと、1つになれない国だ。マドリードとバルセロナは、歴史的にも深い対立関係にある。バルセロナのあるカタルーニャ地方やバスク地方では、スペインからの独立運動も盛ん。昨年10月にはカタルーニャが住民投票で独立を決め、バルセロナのリーグ脱退まで話題になった(憲法違反で認められていないが)。

 カタルーニャやバスクではそれぞれ代表を編成し、他国と試合をする。FIFA非公認の代表だが、W杯でもベスト8の実力だという。バルセロナ監督だったクライフは、スペイン代表監督の就任要請をはねつけて、カタルーニャ代表の監督を務めた。スペイン代表には、求心力がない。

 最近はマドリード市内のスポーツ用品店でバルセロナのユニホームを売っているが、スペインの山本孔一通信員は「商売のため。昔なら、火をつけられる」と笑ったが、そのくらい溝は深い。今大会でも「代表が負けて喜んでいる人もいます」と、同通信員は代表の複雑な立場を説明した。

 スペイン代表は、地元では「ロホ(赤)」と呼ばれる。イタリア代表の「アズーリ(青)」と同じだ。日本では「無敵艦隊」と呼ばれるが、山本通信員は「誰が言い出したんですかね。無敵艦隊なんて、イングランド艦隊に負けるのに」と首をひねった。98年W杯予選を無敗で突破した頃から日本のメディアが使い出したようだが、スペインでそう呼ばれることはない。

【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIの毎日がW杯」)

決勝トーナメント1回戦でロシアに敗れたスペイン代表(AP)
決勝トーナメント1回戦でロシアに敗れたスペイン代表(AP)

 「無敵艦隊」はスペインが誇る大型艦隊。1588年のアルマダの海戦直前に経験が浅い総司令官に代わったが、強力布陣を前面に出港した。しかし、イングランド艦隊の守りを崩せずに惨敗。膨大な損害を被った。「無敵艦隊」には「見かけ倒し」の意味もある。今回のスペイン代表も大会直前に指揮官が代わり、豪華布陣で勝てると踏んだがロシアに敗れた。確かに、「無敵艦隊」らしいと言えばその通りかもしれない。