【サランスク(ロシア)19日】日本(FIFAランク61位)が、初戦で格上コロンビア(同16位)から金星を挙げた。先制点は日本の10番、MF香川真司(29=ドルトムント)。前半6分、自ら獲得したPKを右足でゴール右に沈めた。前回大会で1-4の大敗を喫した相手に2-1でリベンジ。香川はワールドカップで先発し、得点した10番は勝てないジンクスを打ち破った。初戦で勝ち点を奪った過去2大会ともに1次リーグを突破しており、2大会ぶりの16強へ最高の発進。日本は24日(日本時間25日)の第2戦で同率1位のセネガルと対戦する。

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 祈る日本人の思いを力に変えた。前半6分、自ら奪ったPK。気温27度、黄色く染まった観客席からブーイングが降り注ぐ中、香川は汗をしたたらせ、PKスポットで息を吐いた。「自分で取ったので」と志願したキックはGKの逆を突いてゴール右へ。先制。ネットが揺れる。日の丸が揺れる。10番は左胸のエンブレムをたたきながら、右コーナーへ走った。滑った。ほえた。2度目のW杯で初得点。「もう少し落ち着けば良かった」と照れ笑いするほど感情がほとばしった。

 PK獲得時は、DFのハンドと一発退場を誘発。チームに数的優位をもたらした。前半途中に追いつかれたが、後半にFW大迫が決勝ゴール。W杯で背番号10が先発した試合は1分け7敗と未勝利だったが、20年前の初出場から6大会目にして、先発して、ゴールして、勝利した初めての10番になった。W杯で南米に勝つのも初めて。「ロシアで打ち破る」と宣言していたジンクスを吹き飛ばした。

 すべては4年前の屈辱から始まった。同じコロンビア戦。チーム最多5本のシュートを放ちながら無得点で1-4の惨敗を喫した。チームも未勝利。戦犯扱いされた男は、うちひしがれ、帰国後に生活を変えると決めた。毎朝、心拍数、血中乳酸値、体温、体重の計測と所感の5項目を確認。数値に応じて練習量を調整した。自宅のリビングにはホワイトボードを買い、1日の起床から就寝まで書き込む。その予定を大きく崩したのは、落選した昨年11月の代表ベルギー遠征を、往復9時間かけて観戦した時だけだ。ボードの最上段には「W杯」。バルコニーには人工芝を敷きつめ、いつでも汗をかける。「4年前の負けがあったから、今がある。苦しみ抜いたプロセスを信じていた」と振り返った通りの復活劇だった。

 9歳で見たフランス大会でW杯を知り、12歳になった少年は1人で掃除と洗濯だけ覚え、神戸からFCみやぎバルセロナへ越境入団した。母広美さん(58)は「以来1度も泣き言を言ったことがない。母として寂しい」と笑うほど、一筋で自立していた。この4年、クラブでは理不尽なベンチ外も味わったが、心は折れず、たくましさを増す。「逆境でこそ、今の僕は真骨頂を発揮できる。ピッチで見せるだけだった」。間違っていなかった。「うれしいけど、次に目を向けないと」。それでも一晩だけは喜びに浸りたい。日本人で初めてマンチェスターUに所属し、ドルトムントで成功した香川が、手にできていなかったもの。W杯での得点、そして勝利をついにつかみ取った。【木下淳】