日本が決勝トーナメント進出へ、価値あるドローに持ち込んだ。1点をリードされた前半34分、MF乾貴士(30=ベティス)が、ペナルティーエリア左でボールを受け、右足で見事な軌道を描くシュートで、ワールドカップ(W杯)初ゴールを挙げた。後半も本田の同点ゴールをアシストし、2度追いついた死闘の鍵を握る活躍。1次リーグ突破へ、乾がキーマンになることを印象づけた。

 一瞬、時が止まったようにスタジアムがしん、とした。増築された客席も埋まった満員のエカテリンブルクのスタジアム。1点を追う前半34分、長友が左サイドを攻め上がり、柴崎のロングフィードを受ける。粘った長友からパスを受けた乾に迷いはなかった。

 ゴール右に狙いを定め、最高の位置にボールを置き、右足を振り抜いた。「得意な形だったので思い切って打ちました」。パラグアイとの強化マッチでも決めている、今代表で最も信頼できるパターン。シュートはワンバウンドしてGKの手をすり抜けた。スタジアムはうめき声のような大歓声に包まれた。

 前半11分、ミスが重なり先制される嫌な雰囲気だったが、乾の必殺シュートが決まり、そんなムードを一蹴した。コロンビア戦では守備に貢献したが、得意のパターンでシュートミス。その思いを晴らそうとしていた。「コロンビア戦では何もできなくて悔しかった。それでも使ってくれた監督の期待に応えたかった」。

 後半、再び勝ち越されると33分、乾が左サイドからダイレクトでグラウンダーのパスを送り、本田の同点弾をアシストした。「圭佑君を狙ったわけじゃないんです。キーパーの飛び出しも見えてましたし、ダイレクトで、シンプルに上げてみました」。興奮を抑え、クールに、少しだけ声のトーンが上がったところに乾の充実感が表れた。

 乾の代名詞ともなった「セクシーフットボール」と言われた滋賀・野洲高時代には、部室からリフティングをしながら出てきたり、常にボールと一緒だった誰もが認める「サッカー小僧」。30歳になったサッカー小僧の顔にようやく本当の笑みが浮かんだ。

 ポーランド戦ですべてが決まる。乾は最後に力強く言った。「難しい相手ですけど、死に物狂いで戦っていきたいです」。【小杉舞】