【ボルゴグラード(ロシア)29日】勝負師・西野朗監督(63)が2つの賭けに勝ち、2大会ぶり3度目の決勝トーナメント(T)へ導いた。日本はポーランドに0-1で敗れたが、1点を追う終盤にパスを回して時間稼ぎする「安全策」を敢行。同時進行のセネガルがコロンビアに敗れたことで、今大会から採用されたフェアプレーポイントによる順位決定が初めて適用され、2位に滑り込んだ。さらに決勝Tを見据えて先発6人を変更する大胆な采配も光った。2日(日本時間3日午前3時)の決勝トーナメント1回戦で初の8強入りをかけ、強豪ベルギーと対戦する。
采配ではなく、ただのギャンブルだといわれれば、そうかもしれない。ただ結果はつかんだ。試合に負けたが西野監督は賭けに勝ち、日本は突破した。指揮官はグッタリ。会見ではいつもしっかり座り机に身を乗り出すようにするが、いすにもたれかかって話した。
後半37分に長谷部を投入し、残り15分近くは、失点のリスクを避け、攻めずにただボールを回し、命運を分ける警告も受けないよう安全策を指示した。無抵抗で、もはや神頼み。「超攻撃」「アグレッシブ」が旗印の指揮官が、正反対のことをさせた。選手はブーイングにまみれた。
「これは間違いなく他力の選択を選んだということ。負けてる状況をキープしている自分、チーム…。それも非常に納得いかない、本意ではない選択をしている。他力を頼っている我々…。自分の心情とすれば不本意です。でも選手に遂行させました。ただ、W杯は、そういう戦いもあって、その選択が正解と出れば、それは勝負にも勝ったということとチームとしても思いたい」
信念を曲げてでも、勝負にこだわる理由があった。96年アトランタ・オリンピック(五輪)では1次リーグで2勝しながら突破できなかった。「オリンピックの経験も感じながら今回、是が非でも突破というところに関しては、自分の中でもリベンジできた」。ようやく、硬かった表情が少し緩んだ。「W杯、グループステージを突破する中での究極の選択かもしれません」と、批判があることも覚悟で勝負した。
試合開始から賭けに出た。第1、2戦で不動だった先発を6人も代え、得点者の香川、大迫、乾、本田はベンチ。先を見据えての選択で「勝ち上がるということを、自分の中で前提として考えていました」と言い切った。日本のW杯16強は3度目だが、過去2度は突破の時点で疲労がピークだった。8強入りのため、先発メンバーを温存し、賛否の声があるのは承知で終盤の試合運びを指示した。2つも大ばくちを打ち、すべてに勝った。次は不動の11人で臨めそうだ。
試合には負けた。ただ、生き残った。正々堂々-、潔く-。日本の美学、指揮官の美学、きれいごとだけでは越えられない部分を越えた。突破したから次がある。これもサッカー。強豪ベルギーに挑戦できる。【八反誠】