【ロストフナドヌー(ロシア)1日】MF香川真司(29=ドルトムント)が日本を新境地へ導く。史上初のベスト8が懸かる2日(日本時間3日)の決勝トーナメント(T)1回戦ベルギー戦は、トップ下で先発することが濃厚。02年と10年の2度、日本が8強の壁に阻まれた試合を生観戦していた男が、今度はピッチで歴史の扉をこじ開ける。

 時は来た。香川は開幕2試合に先発後、第3戦ポーランド戦で温存された。中3日→中3日の連戦を回避し「いい休養になった。次は最高の状態でピッチに入りたい」。中7日、万全。初戦で日本を勢いづける先制弾を決めた。今度は壁の向こうへ。16強の喜びはない。「ここからが新たな戦い」と口元を引き締めた。

 日本が見たことのない景色へ、三度目の正直だ。初めて16強入りした02年日韓大会。当時、神戸から仙台にサッカー留学していた中学2年の香川は、宮城スタジアムのスタンドにいた。眼下には初のステージでトルコと戦う日本代表。プレーに感嘆し、目を輝かせ、最後に8強を阻まれる姿を見た。98年ワールドカップ(W杯)をテレビで見た時は「出たい」だった思いが、この時「勝ちたい」に変わった記憶がある。

 10年南アフリカ大会はバックアップメンバーとしてパラグアイ戦を見届けた。PK戦の末に散った先輩たちが涙を流す姿を、冷静に見つめていた。同じようにピッチで泣いて抱き合えない。「出られず悔しかったけど、仮に選ばれても当時の実力では活躍できなかった」。この年の瀬から10番を背負い、4年後のW杯で結果を出すと誓った。夢破れ、さらに4年後は「集大成」と決めた。今こそ日本のために力を出し尽くす。

 その10年大会以来7年ぶりに代表戦をスタンド観戦したのが、昨年11月の親善試合ベルギー戦だった。当時のハリルホジッチ監督から招集外。ドイツ・ドルトムントの自宅から会場のベルギー・ブルージュまで往復9時間、自らハンドルを握った。「見るだけでもW杯を想定できるし、W杯とリンクさせるため生で見ておく必要があった」から迷わなかった。再確認できたのは「やはり代表は勝つところ。『負けたけど、いい経験』では許されない」。今回もそう。勝たなければ過去と同じ経験で終わる。

 打ち破るしかない。前回ベルギー戦は、攻撃のスイッチが入らないチームを見て「自分に何が求められているか確信した。リスクを負わなければ得点も勝利も得られない。自分が生きれば、もっと強くなる」。迎えた今大会は初戦コロンビア戦で「W杯で勝てない10番」のジンクスを破った。次は未開の世界へ。「欧州CLの経験では16強、8強あたりでは特に差は感じない。一発勝負。何が起こるか分からない」。香川も、日本も、このラウンドでは満足できない。【木下淳】