本物のワールドカップ(W杯)が幕を開けた。決勝トーナメント1回戦屈指の好カード、フランス-アルゼンチン戦で、フランスの19歳FWエムバペ(パリサンジェルマン)が衝撃の2得点をマークした。W杯で10代の1試合複数得点は58年スウェーデン大会のペレ(ブラジル)以来60年ぶり。沈黙したメッシの光が陰りつつある中で、エムバペが放つ閃光(せんこう)が世界のサッカーを明るく照らした。
前半11分、メッシが起点となったパス交換は乱れ、エムバペへ転がった。それが新旧交代のシグナルだった。19歳は逃さない。ワンタッチ目で2人を置き去りにする。慌てて追いすがってきた嗅覚するどい番犬マスケラーノを振り切ると、さらに加速しながら65メートルを攻め上がった。
奪ってから7秒、6タッチ目でボックス内に進入。DFロホは後ろからチャージするしかなく、フランスは19歳の才能を世界に余すところなく披露して先手を奪った。
とんでもない試合になる。4万2000観衆は、この疾走ではじめて気づく。ピッチには苦しむメッシ。その傍らでエムバペの鼓動は強さを増す。
アルゼンチンは41分にMFディマリアの今大会トップクラスの左足ミドルで追いつき、後半3分、メッシのミドルシュートをDFメルカドがコースを変えて勝ち越す。W杯では長い歴史の中で、好勝負を超越し、語り継がれる伝説の試合がいくつかある。この試合がそれだった。
フランスは12分、DFパバールの右足アウトサイドで追いつく。ボックス右から約21メートルをボレーで狙う。アウトサイドにかけたシュートは、わずかに右へスライスしながらゴール左へ吸い込まれていった。19分にはエムバペがペナルティーエリア内で抜けだし、左足で逆転ゴールを決めた。
畳み掛けるフランスは23分、GKロリス→MFカンテ→FWグリーズマン→MFマチュイディ→FWジルーと経由して最後はエムバペが右足で試合を決める4点目。その間12秒。最終ラインから2度のダイレクトパスを含む計8タッチの“新カウンター”でアルゼンチンに、そしてメッシにとどめを刺した。
エムバペは言った。「W杯以上に輝ける場所は他にない」。今こそ、自分の存在を世界に見せつける晴れ舞台とわかっていた。デシャン監督は「彼がフランス人であることがうれしい。ビッグマッチで才能をすべて見せてくれた」と言い、期待を込めたまなざしを送った。
誰もが、興奮と充実感に浸った。何の理屈も必要ない。素晴らしい攻防と、スリリングなゴールを7回も見ることができた。「これがサッカーだ」。1次リーグ終盤の上っ面をなでるような緩い攻防は一瞬もない。倒すか倒されるか。激しい殴り合いは、ロシア大会の象徴となり、W杯に衝撃の1ページがしるされた。
◆キリアン・エムバペ 1998年12月20日、パリ近郊のボンディ生まれ。両親はカメルーン出身のサッカー指導者の父と、アルジェリア人の元ハンドボール選手の母。モナコでプロデビューし、16年2月のリーグ戦でクラブ史上最年少17歳2カ月で初得点。17年3月に18歳3カ月でA代表デビュー。今大会1次リーグ・ペルー戦で同国代表のW杯最年少得点を記録。アニメ「忍者タートルズ」の登場人物ドナテロに似ているため、愛称「ドナテロ」。
<伝説の「ど派手」試合(主な両チーム3点以上)>
◆イタリア4(延長)3西ドイツ(70年メキシコ大会準決勝) イタリアは終了間際に1-1に追いつかれ、延長前半で3-2とリード。同後半にミュラーに同点にされたが、直後にリベラが決勝ゴール。右肩を脱臼したベッケンバウアーは固定してプレーした。
◆西ドイツ3(延長)3フランス(82年スペイン大会準決勝) 西ドイツは1-1から突入した延長でフランスに2点を先行され大ピンチ。負傷のルンメニゲが交代出場直後に1点を返すと、延長後半にはフィッシャーのオーバーヘッドで同点。PK戦勝ちした。
◆ベルギー4(延長)3ソ連(86年メキシコ大会1回戦)ベルギーは2-2で突入した延長前半11分に20歳デモルが頭で決勝ゴール。その後1点ずつ取り合ったが逃げ切り、初の8強進出を決めた。ソ連はベラノフのハットトリックも実らなかった。



