日本も味わったあの「本気」のベルギーは、やっぱり強かった。それは、王国ブラジルをも蹴散らすほどに-。

 FIFAランキング2位のブラジルと、同3位のベルギー。準々決勝屈指の好カードの結末を一体、どう想像していただろうか。

 86年メキシコ大会以来8大会ぶりのベスト4を目指すベルギーは、決勝トーナメント1回戦の日本戦で途中出場ながら得点を決めたMFフェライニとMFシャドリの2人を先発させた。

 一方で4大会ぶり6度目の優勝に挑むブラジルは、1次リーグ第3戦のセルビア戦で背中を痛めていた左サイドバックのマルセロが先発復帰した。

 最初にチャンスを迎えたのはブラジルだった。それも、高さでビハインドを背負うセットプレーから。

 前半8分の左CK。キッカーのFWネイマールは速いボールをニアサイドに送った。これをDFミランダが後方にそらすと、DFチアゴシウバが飛び込む。惜しくもポストに当たってしまったが、狙いは徹底していた。続く前半10分の右CKでもMFビリアンは低いボールを送った。間を抜けていき、フリーのMFパウリーニョの前に転がる。これも絶好のチャンスだった。ただ、うまくバウンドに合わせることができず、好機を逸した。流れが変わる予兆が生まれた。

 すると、試合を動かしたのはベルギーだった。前半13分の左CK。ニアサイドでDFコンパニーがそらしたボールが、出場停止のMFカゼミロに代わって中盤の底に入ったブラジルMFフェルナンジーニョの腕に当たって軌道が変わった。ゴールに吸い込まれる、まさかのオウンゴール。3試合連続で無失点を続けていたブラジルゴールが、あっけなく開けられた瞬間だった。

 しかも、これだけでは終わらない。圧巻は、日本戦でも見せたあの「赤い悪魔のカウンター」だった。

 前半31分、ブラジルのCKからのこぼれ球をベルギーFWルカクが拾った。ドリブルを開始し、ブラジル守備網を力強くかいくぐる。引きつけたところで、右サイドのMFデブルイネに渡した。このとき、ルカクは倒されていた。

 もし、倒れていなかったら、デブルイネはルカクを見つめ返していたかもしれない。だが、合わせるべきターゲットがいなくなると、その目は自然とゴールに向けられた。数タッチ後に、ペナルティーエリアライ上から右足を強振。まさに矢のような弾道が左サイドネットに突き刺さった。鮮やかなミドル。ベルギーが2点差をつけた。ブラジルは16年3月のパラグアイ戦以来、2年ぶりの複数失点。同年6月にチチ監督が就任してからは初めての屈辱だった。

 ブラジルの至宝ネイマールも、決して黙ってはいなかった。果敢にドリブルでペナルティーエリア内に侵入。ボールを取られないのはさすがで、ファウルを誘うように仕掛けて倒れた。だが、主審の目をごまかすことはできなかった。PKを取ってもらえないと知ると、抗議をするより早くボールをもらいに行く。漏れる失笑。それもまた、ネイマール劇場の1つだった。

 ボールの保持率を増すブラジルだが、赤い壁はなかなか崩れない。日本戦では先に2点を先行されたベルギーだが、GKクルトワを中心に守備陣の集中が切れなかった。反対に、カウンターへの反応の鋭さは増していた。後半17分にはFWアザールが決定機も迎えた。いら立つブラジルはパスミスが目立ち始めた。赤い悪魔の術中に陥りかけていた。

 流れを変えようと、ブラジルは後半28分までに3人を交代した。その最後に入れたMFレナトアウグストが、ブラジルに希望の光を与えた。3分後の後半31分、MFコウチーニョからの浮き球のパスを、前へと走りながら頭で合わせる。堅かったベルギーのゴールを、やっとこじ開けた。

 これで息を吹き返したように、カナリア軍団は猛攻を仕掛けた。後半35分には再びレナトアウグストが中央でパスを受けてフリーになった。だが、決定的なシュートは左へ。39分には左サイドをネイマールが駆け上がり、1人交わして走り込んだMFコウチーニョへ送る。だが、枠を捕らえられなかった。放ったシュート数はベルギーの3倍。何度も、何度も迫った。49分にはネイマールのカーブシュートがゴール右隅をとらえようとしていた。だが、名手クルトワの懸命に伸ばした右手がかろうじてボールをはじき出した。

 そして笛は吹かれた。16年9月のスペイン戦(0-2)を最後に23戦負けがないベルギーが、不敗記録を更新し続けた。

 前回の自国開催でネイマールは、準々決勝のコロンビア戦で腰椎を骨折。離脱を余儀なくされて、チームは準決勝でドイツに1-7の屈辱的な大敗を喫した。

 あの日から4年。ネイマールのW杯はまたしても、準々決勝で終わりを告げた。