久保建英のレアル・マドリードのBチーム、カスティージャ入団から、マジョルカへの期限付き移籍を果たし現在に至るまで、スペインでその動向を追い続けているが、ポジション取りに向けて大きく立ち塞がる壁があるように思える。

当初、久保のカスティージャ入団についてスペイン国内では、将来有望な若手選手との契約を方針のひとつに掲げているRマドリードが、バルセロナの元下部組織出身の日本人を獲得したという「Rマドリードがバルサとの”クラシコ”に勝利した」程度の認識であった。

しかし、久保が日本代表として南米選手権を戦い、その後Rマドリードの北米ツアーに同行し、連日高いスキルを披露すると、スペインメディアの扱いも変わっていく。スペイン紙の1面を飾り、久保は一躍時の人となっていった。その勢いはマドリード市内のRマドリードのオフィシャルショップにも及び、名前入りユニホームがトップチームの選手たちと並んで堂々と販売されていた。

「久保はカスティージャ登録なのか、他チームへ期限付き移籍されるのか」とスペインや日本でざわめき出した中、Rマドリードは久保をトップチームの練習に参加させつつ、クラブの伝説的な選手だったラウール監督指揮下のカスティージャで3部リーグを戦わせることを決定した。だが久保は最終的にトップリーグでの出場機会を求め、マジョルカへの期限付き移籍を決断したのである。

「レアル・クルブ・デポルティボ・マジョルカ」は、かつて大久保嘉人(現ジュビロ磐田)や家長昭博(現川崎フロンターレ)が所属し、今シーズン7年ぶりに1部昇格を果たしたクラブである。

ビセンテ・モレノはマジョルカ監督就任後、17-18シーズンは3部、昨シーズンは2部と、2年連続で厳しいプレーオフを勝ち抜き、わずか2年で1部再昇格を成し遂げているが、その時のメンバーが今のスタメンのほとんどを占めている。チーム内の結束は固く、まさにビセンテ・モレノの“ファミリー”と呼ぶにふさわしいものである。

実際、1部リーグ開幕エイバル戦のスタメンのうち、3部時代からのメンバーが5名(マノーロ・レイナ、サストレ、ライージョ、サルバ・セビージャ、ラゴ・ジュニオル)、2部を戦った選手となると9名(前述の5選手+ヴァリエント、イドリス・ババ、ダニ・ロドリゲス、ブディミール)もいる。今シーズン入団した中でスタメン入りを果たしたのは、フェバスとアグベニェヌのわずか2選手のみ。

ビセンテ・モレノはその後もずっと固定メンバーに信頼を置いており、直近の第10節レガネス戦では、フェバス以外のスタメン10選手が昨シーズンも所属していた選手たちだった。

久保が入団したタイミングは、2部を勝ち抜き組織化されていたチームがリーグ開幕戦に勝利した直後だったため、スタメンの座を勝ち取るのは容易ではないと思われた。

そんな中、久保は入団10日後にアウェーで行われた第3節バレンシア戦、後半34分にマジョルカデビューを果たした。しかしその直後、代表招集され日本へ帰国。ホームの次節ビルバオ戦もベンチスタートとなった。

久保にとって、9月から11月まで3カ月続く代表ウイークがスタメン取りの大きな障壁となっている。多くの代表選手がそこでペースを落としているが、久保も例に漏れない。長距離移動とチームでの練習不足が“ファミリー”の一員になるための足かせとなっていることは否めない。

マジョルカは、Rマドリードやバルセロナなどのビッククラブのように、毎回10選手以上が代表参加しているクラブではない。代表招集されているのは久保、トライコフスキ(北マケドニア)、ヴァリエント(スロバキア)の3選手のみ。そのためビセンテ・モレノは、代表ウイークの約2週間を入念に次節の準備に費やせるのである。一方、久保はその流れから毎回外れることとなる。

そんな状況下、今季最初の平日開催となった第6節アトレチコ・マドリード戦で、久保は初スタメンのチャンスを得ると、続く第7節アラベス戦にも先発出場した。

開幕戦以降、一度も勝ち星をあげられていない監督が、それまでのパフォーマンスを高く評価し、ついに固定メンバーに「久保」という新たな血を入れたかに思えたが、中盤の選手を休ませるローテーションだったようだ。実際、ここ3試合連続で久保はベンチスタートに戻っている。

その間に行われた第9節Rマドリード戦前にも久保は、再び代表招集されチームを離脱。強者相手に久保以外のメンバー構成で入念なプランを練り上げ、ホームで大金星をあげたビセンテ・モレノにとって、久保を今スタメン起用する理由はないのかもしれない。

ビルバオ戦でPKを奪ったドリブルやヘタフェ戦での初アシストのクロス、アトレチコ戦でポストに当てたシュート、卓越したボールコントロールなどを見る通り、久保が才能あふれる選手であることは間違いない。しかしビセンテ・モレノの“ファミリー”の一員になるための壁はまだ想像以上に高いのかもしれない。1年間の期限付き移籍の中で、久保がどのようにもがき、成長するのか、今後もその過程を見届けていきたい。

【高橋智行】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

マジョルカMF久保建英(19年10月撮影・PIKO)
マジョルカMF久保建英(19年10月撮影・PIKO)