今シーズンのスペイン1部リーグ第10節バルセロナ対レアル・マドリードのクラシコは当初、バルサのホームスタジアム、カンプ・ノウで10月26日に開催予定だった。

しかし、2017年にバルサの本拠地のあるカタルーニャ州独立を強行に進め失敗に終わった当時の同州政府幹部9名に対し、スペイン最高裁判所により長期の禁錮刑が言い渡されたことで市民による抗議活動やデモがカタルーニャ州で激化。政治的問題がサッカーの試合に影響を与えることとなった。

これによりカンプ・ノウ周辺の治安面に不安が生じ、当初ホームとアウェーの順番を入れ替える案が浮上したものの、最終的にクラシコは12月18日に延期されることで合意されたのである。

しかし新たな日程が決定してもなお、カタルーニャ州の独立派組織がクラシコ当日に大規模な抗議活動を行うことを予告しており、安全面の確保が万全な状態でないため、試合開始ギリギリまで予断を許さない状況になっている。

そんな中、両チームはこれ以上ないデットヒートを繰り広げて18日を迎えることになった。両チームとも消化試合が1試合少ないにも関わらず、勝ち点で並びトップをキープし、前半戦の王者を決める対戦となった。

今回のクラシコは通算243回目。これまでの公式戦242回の対戦成績は、バルサ96勝、Rマドリード95勝、そして引き分けが51回と非常に拮抗している。

この伝統の一戦の対戦数を上回るのは、274回でスペインサッカー史上最多を誇るRマドリードとアトレチコ・マドリードのマドリードダービー、そして261回のバルサとエスパニョールのカタルーニャダービーのみである。

また両者は1部リーグでこれまで178回対戦し、バルサとレアルがともに72勝を挙げ、34分けと、こちらも非常に均衡した状態になっている。

バルサとRマドリードは今夏、昨シーズンイングランド勢にヨーロッパを支配されたこともあり大型補強を敢行した。

バルサはグリーズマンやデ・ヨングなどを補強するために1部リーグで2番目となる2億4600万ユーロ(約295億2000万円)を費やした。

欧州チャンピオンズリーグ3連覇など近年大成功を収めていたRマドリードは昨シーズンの失敗を踏まえ、アザールやヨヴィッチなどの獲得に1部リーグトップとなる2億9800万ユーロ(約357億6000万円)を投資している。

しかし両チームともスタートダッシュに苦しんだ。その大きな理由として、バルサではメッシがプレシーズン中に負傷したことが挙げられるだろう。さらに大きな期待のかかるグリーズマンもチームにフィットするのに時間がかかっていた。

エースを欠いた昨季のチャンピオンチームは勢いに乗ることができず、開幕戦でビルバオに敗れ、リーグ戦最初5試合の成績は2勝1分け2敗と低調だった。その一方でアンス・ファティが第2節ベティス戦でクラブ史上2番目の若さとなる16歳298日でトップチームデビューを果たし、様々な記録を塗り替えたことは朗報となっていた。

Rマドリードでは、クリスティアーノ・ロナウドの代わりとして新たな“ガラクティコ(銀河系の選手)”として迎えられたアザールが体重増加の影響もあり、プレシーズンで輝けず、リーグ戦開幕直前に負傷し、約1カ月の戦線離脱を余儀なくされたことが痛手となった。またジダン監督はアザール以外の新入団選手をチームに組み込むのに苦しんでいた。

90分間集中して戦えないという問題が浮き彫りとなり、リーグ戦で思うように勝ち点を伸ばせず、チャンピオンズリーグ初戦のパリ・サンジェルマン戦では3-0の大敗を喫し、チーム危機が囁かれるまでになっていた。

序盤、バルサとRマドリードが取りこぼしたことにより、リーグ戦は首位チームが次々と入れ替わる、近年稀に大混戦となった。Rマドリード、セビージャ、アトレチコ・マドリード、ビルバオ、バルセロナ、グラナダと6チームが代わる代わる首位になっていた。特に今シーズン2部リーグから昇格してきたばかりのグラナダが第10節で首位になったが、これはクラブ史上46年ぶりとなる大快挙となった。

しかしその状況も一転する。メッシがケガから復帰したバルサが第11節で首位に立つと、その後は調子を上げてきたRマドリードと勝ち点で並び、一歩リードした状態でクラシコを迎えている。

バルサはレバンテ戦の敗北を最後に、現在公式戦8戦無敗をキープしているが、ここ最近、無失点で終えたのがAマドリードのみと守備面の脆さがやや懸念されている。しかしジョルディ・アルバとセメードのレギュラーのサイドバックが揃って、週末のレアル・ソシエダ戦でケガから復帰したことは朗報だ。

中盤では今季、ブスケツのパフォーマンスに疑問が持たれているものの、アヤックスから入団したデ・ヨングがバルサに長年在籍しているかのような貫禄ある精度の高いプレーを見せていること、そして出場機会の少なさから退団をほのめかす発言をするまでになっていたラキティッチがここに来て完全復活を遂げていることは非常に大きい。

さらに前線ではメッシ、ルイス・スアレス、今季のクラブ最高額でAマドリードから入団したグリーズマンの“トリデンテ(三又の矛)”がようやく期待通りの機能を果たしている。特にマジョルカ戦での3選手で5ゴールは圧巻の一言だった。

一方のRマドリードはマジョルカ戦に敗れた後、公式戦11試合連続無敗でクラシコを迎えている。脆弱(ぜいじゃく)だった守備面が大幅に改善され一時期の危機は脱した。アザール、マルセロの欠場は不安材料だが、ベンゼマが安定してハイパフォーマンスを見せていることはマドリディスタにとっての大きな光となっている。

ベンゼマはクリスティアーノ・ロナウド退団後、ゴールの責任を一身に背負い、特に昨シーズン終盤からゴールを量産。先週末に行われたバレンシア戦でも土壇場で同点ゴールを決めチームを敗北から救っている。

また若きブラジル人コンビ、ヴィニシウス、ロドリゴ・ゴエスのここ最近のパフォーマンスは、ジダンの選択肢に大きな幅を与えるものとなるだろう。中でも今夏、久保建英のライバルと目されていた18歳のロドリゴはホームのガラタサライ戦でハットトリックを記録するとブラジル代表デビューも飾り、わずか数カ月で見違えるほどの進化を遂げている。

そして豊富な運動量でピッチ全体をカバーするバルベルデの存在は、今やRマドリードの中盤に欠かせないものになりつつある。実際、昨年の個人タイトルを総なめにしたモドリッチからポジションを奪うところまで来ている。

リーグ戦のホームゲームでのクラシコでバルサは89試合を戦い50勝19分け20敗と大きく勝ち越している。しかしカンプ・ノウではここ4試合で1勝2分け1敗となっているため、レアルにも十分チャンスがあるだろう。

今回はまた、クラシコまでの休息時間に大きな差があることが問題となっている。バルサがレアル・ソシエダード戦を14日16時に戦ったのに対し、Rマドリードはバレンシア戦を15日21時プレーした。その差29時間となっており、バルサ有利の声が上がっている。しかしジダンは「日程を決めるのはラ・リーガであり、我々はそのことを尊重している」と冷静に受け止めていた。

そして12ゴールで並びトップに立つメッシとベンゼマのピチチ賞(リーグ戦の得点王)争いに注目が集まるが、両選手のゴールの決め方を見てみると非常に個性が出ており面白い。メッシが利き足の左足で全ゴールを決めているのに対し、ベンゼマは利き足の右足で6ゴール、左足で3ゴール、ヘディングで2ゴールを記録している。

大一番を目前に控えメッシは「ここ最近のように非常に安定し、とても強いRマドリードが来ると予想している。バルサ対Rマドリードは常に、どんな状態で迎えるかなど関係ない特別なゲームだ。両チームともとてもいい瞬間を過ごしているよ」と印象を述べていた。

一方、Rマドリードのキャプテン、セルヒオ・ラモスが「両チームとも現在トップフォームにある」と語ると、ベンゼマは「カンプ・ノウは常に難しいし、あそこは常にシーズンで最も重要な試合となる。僕たちが勝てることを願っている」とコメントしていた。

今シーズン最初の“クラシコ”は政治的問題を経て2カ月遅れで、バルサの本拠地カンプ・ノウで間もなく開催される。【高橋智行】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)