世界陸上2009

注目選手

　世界陸上を前に福島千里が進化した姿を見せた。０９年６月２７日の日本選手権１００メートルの予選１組に登場し１１秒３２でトップ通過。スタートで一気に先頭に立つと、１・５メートルの追い風にも乗って最後は流すように、余力を持ってゴールした。２１歳の誕生日に、最高の走りを見せた。この月の７日に１１秒２４の日本新を出したばかりだが、この日の１１秒３２は昨年までなら日本記録。０８年４月の織田記念で１１秒３６の日本タイ記録をマークし、一躍脚光を集めたが、流し気味でもこのタイムを上回れるほど、急成長している。しかも前日の２６日には２００メートルで２３秒００の日本新記録を出したばかりだから、今が伸び盛りだ。。

　北京五輪では５６年ぶりに女子１００メートルに出場したが、１１秒７４のタイムで１次予選で敗退した。２０歳の夏に世界の壁の厚さを実感した。

　だが、直後のスーパー陸上で１１秒７０のタイムで優勝。スーパー陸上の同種目で日本人初優勝を果たした。０９年４月２９日の織田幹雄記念陸上では追い風２・２メートルの参考ながら日本記録を上回る１１秒２３のタイムで勝った。５月の大阪ＧＰでは１１秒５６で２位に入り、４００メートルリレーの第２走として、日本新での優勝に貢献するなど大いなる挫折の後に一気の飛躍が待っていた。

　北京での涙をベルリンで笑顔に変えられるか。１年の時を経て再び世界に挑む時がやってきた。

福島千里（ふくしま・ちさと）　１９８８年（昭６３）６月２７日、北海道帯広市生まれ。幕別糠内小、中－帯広南商高－北海道ハイテクＡＣ。幕別糠内中３年の全国中学１００メートル、２００メートルともに２位。帯広南商高では３年時に１００メートルで高校総体２位、国体３位、日本ジュニア優勝、２００メートル総体３位。１００メートルベスト１１秒３６は日本記録。北京五輪で５２年のヘルシンキ五輪の吉川綾子以来５６年ぶりの１００メートル出場を果たしたが１１秒７４で１次予選で敗退した。家族は両親と兄妹。１６５センチ、４８キロ。

　６月２８日の日本選手権１００メートルで２年ぶり２度目の優勝を果たし、世界陸上の代表切符を獲得した。今季は４月の織田記念の１００メートルで予選、決勝ともに追い風参考ながら自己ベストの１１秒２４をマーク。日本記録保持者で同学年のライバル福島千里に０秒０１差の２位となった。５月の静岡国際２００メートルでも福島の２３秒１４に次ぐ２３秒１５をマーク。ともに日本新記録だった。大阪国際ＧＰでも０秒１差で敗れ３レース連続福島に０秒１差負け。日本選手権は雪辱する絶好の機会だったが、福島は右鼠径（そけい）部疲労で２００メートル決勝を欠場。肩透かしにあった形になったが気持ちは折れなかった。

　６月１２日、平塚競技場で行われた日本学生個人選手権の１００メートル予選。１度走りきったが、写真判定機が作動せずにタイムが計れず、再レース。約３０分後に走り直し、１１秒６２（追い風１・１メートル）の大会新をマークした。６月７日の布勢リレーカーニバル兼スプリント挑戦記録会で日本歴代２位の１１秒３２を記録した後、合宿中に日本大学大学院の林教授から「競技の勝負に強くなる脳科学」という講義を受け、「急な変更でも、自分がやろうとしていたことをやったつもり」と、参考になった部分を実践した。本番では親友でライバルの福島を追い越し、世界の強豪を相手に力をためす。

高橋萌木子（たかはし・ももこ）　１９８８年（昭５８）１１月１６日、埼玉県三郷市生まれ。早稲田中から埼玉栄高を経て平成国際大。全日本中学校選手権２００メートルで優勝。埼玉栄高では０４年から０６年までの間、高校総体１００メートルで史上初の３連覇を達成した。１６９センチ、５７キロ。