世界陸上2009

注目選手

　自他ともに認める日本のエース。１００メートル９秒台突入、ファイナリスト進出－日本人の夢を乗せて走る。

　朝原宣治が引退後、代表を引っ張っている。短距離勢の合同練習では髪を頭頂部でまとめた「サムライヘア」で疾走し、ムードメーカーになっている。「ありのままを見てもらわないと伝わらない」。奔放でどんな相手でも物おじしない性格は、大人しい選手が多い代表の中で際立っている。「９秒台は通過点」というビックマウスを実現させてしまう雰囲気を感じさせる。

　「主役は僕」と言い切って臨んだ６月の日本選手権。しかし、１００メートル決勝にその姿はなかった。予選で１０秒０９の自己ベストマークしたが、左大腿（だいたい）二頭筋腱炎（けんえん）で無念の棄権。優勝した江里口匡史には準決勝で１０秒０７をマークされ、自己記録で上回られた。「有言実行」を言い続ける男にとって、戦わずして敗れたことが何より悔しかった。

　「今すぐ走りたい」。すぐに７月のトワイライトゲームズでの復帰を決め１０秒１７で優勝、故障からの回復を見せつけた。２度目の舞台は自分自身へのリベンジ、失いかけたプライドを取り戻す戦い戦いになる。

塚原直貴（つかはら・なおき）　１９８５年（昭６０）５月１０日、長野県岡谷市生まれ。東海大三高から東海大へ進み、０８年に富士通に入社。高３の０３年に高校総体１００、２００メートルで優勝。０６年から０８年まで日本選手権を３連覇。０９年の大阪ＧＰでＧＰシリーズ初優勝を果たした。趣味はバイクだったが、北京五輪代表に選ばれたの機に脚を守るために売却した。１８０センチ、７７キロ。

　北京五輪４００メートルリレーで第３走者として日本勢のトラック種目８０年ぶりのメダルをもたらした男は、自分の思うように走り、そして結果を残してきた。

　今年の日本選手権２００メートル決勝で日本歴代３位の２０秒２２をマークし優勝。しかし、この日の相手は隣にいる選手ではなく、末続慎吾の日本記録、伊東浩司の日本歴代２位だった。五輪で銅メダルを獲得してから、国内のレースでは士気が高まらなかった。だからこそ、相手を競技場の中に求めず、「記録」と戦った。レース前には世界記録保持者ボルトの映像を見て、世界で戦うイメージも作り上げた。「つまらなくなったら引退」と公言する男が新たなステージに立った瞬間だった。

　陸上は「特技ではなく趣味」と言い切り、自分が楽しいと思えること優先させるマイペース人間だ。高校時代から練習メニューで監督と衝突し、不要だと思えば「やりたくない」と言ってのけた。大学時代には、寮に入らなければならない規則を破って、一人暮らしを敢行した。周囲の期待よりも、まず自分の考えを大事にする。それだけに結果は残すことは決して忘れない。マイペースで楽しむことが原動力になっている。

　３回目の世界陸上となる今回は準決勝進出が目標だ。「日本選手権の決勝のタイムが出せればファイナリストも」ともくろむ。マイペースな天才には、すでに決勝までのイメージが出来上がっている。

高平慎士（たかひら・しんじ）　１９８４年（昭５９）７月１８日、北海道旭川市生まれ。陸上は小学４年から始め、旭川大高－順大。０４年の日本選手権で優勝、アテネ五輪代表に選ばれる。０７年に富士通に入社。０８年北京五輪に２大会連続出場、４００メートルリレーの第３走者として銅メダルを獲得する。１００メートルと２００メートルをこなすが、コーナーリングが上手く２００メートルで結果を残している。身長１８０センチ、体重６０キロ。