4月からプロに転向する男子マラソンの川内優輝(32=埼玉県庁)が29日、公務員としてのラスト出勤を終えた。

勤務する埼玉・久喜高の同僚、生徒らから感謝や激励の言葉をかけられた。記念の花束や久喜高のロゴが入ったタオルもプレゼントされた。川内は「公務員人生、幸せだった。この生活を10年続けてきた。来週の月曜日になると『今日は仕事に行かなくていいのかな』と不思議な気持ちになると思う」。そう感慨深げに口にした。

約10年の公務員生活。最も印象的な仕事は、副編集委員として約3年に渡って携わった久喜高創立100周年記念誌を作成だという。散在する資料を集め、エクセルで図表をまとめるなどした。500ページ以上、久喜高の100年の歴史が詰まった資料を完成させた。「同窓会とかで『あの先生は、先輩の時もいたのですね』など友情が深まる部分があればいいのかな。(学校で)新渡戸稲造さん、嘉納治五郎さん、与謝野晶子さんも講演をしている。今の生徒たちは知らない部分もあった。伝統校のすばらしさも分かって欲しいですし、自分の学校に誇りを持ってもらえたら」と話した。

公務員ランナーとして一番、印象的なレースを問われると、日本人では瀬古利彦氏(62)以来、31年ぶりに優勝した昨年4月のボストンマラソンを挙げた。世界屈指の伝統があるハイレベルな大会。「ニューヨークは3回挑戦して最高6位。でもやったなという気持ちがあった。でも表彰台に立ったら、どれだけ素晴らしいだろうと思っていた。ボストンでは3位以内どころか優勝。こんな世界が待っているのかと新鮮だった。前日は1%ぐらいは優勝できるかなと思っていた。その1%がかなった。できないと思ったらできないですけど、1%でもできると思ったら、できる可能性がある」と振り返った。

自身も生徒も卒業を控えた3月、定時制のクラスに約1時間の講義を開いた。自身の経験を元に「1つ得意なことを見つけて、徹底的に伸ばすことが自分の人生を切り開く」などを説いたという。また自身のウィキペディア(インターネット百科事典)に、事実と違う部分があることを例に「メディアリテラシー」の重要性も伝えたという。

「『かつては埼玉県庁として所属』とありますが、まだ(3月末まで)埼玉県庁の所属ですからね」と笑う。13年エジプト国際ではパスポートを忘れ、用意された飛行機に乗れず、自腹で26万円を支払ったが、ウィキペディアには「エジプト大使館の好意で復路航空代の約25万円が支給された」と記されており、それも間違いだという。

これで公務員ランナーの肩書はなくなる。プロランナーの道を歩んでいく。