衝撃的な光景が広がっていた。レースの結果が表示される電光掲示板。女子100メートル、200メートル日本記録保持者の名前があったのは、一番下だった。

何かアクシデントが発生したわけではない。福島千里(32=セイコー)は走りきった。12秒56(追い風0・6メートル)は予選4組6人中の6着だった。自分が持つ日本記録より1秒35も遅れた。結果を確認すると、信じられないような表情を浮かべた。

報道陣の前に来ると、「何か悪いことをした気分」と苦笑いした。女子スプリント界の中では次元の違う走りで、歴史を塗り替え続けてきた。長く国内では敵無しの状態だった。日本人との争いでビリだったことなどあったのだろうか…。「そういうレベルでやっていないので…。正直、分かんないのですけど、考えます。次にもし、そういうことがあったら、ちゃんと答えます」。そう言葉にした。出場は28人で、予選落ちは4人。「驚かれるだけ、自分の立場をありがたいと思うしかないですよね」とも話した。

この数年はアキレス腱など故障の負の連鎖が続く。足の痛みを聞かれると「大丈夫」と言う。その上で「ある程度しっかり練習を積める状態で練習を再開している。痛みがあるから、走れないとかそういうのではない」と口にした。まだ発表されていないが、10月の日本選手権(新潟)の参加標準記録もクリアできていない見込み。100メートル、200メートルとも過去8度優勝している日本選手権だが、欠場した昨年に続き、そこに立つことすらできない可能性もある。もがき苦しみながら、厳しい現実を受け止める。

「最低でも日本選手権の標準を切りたかったが、ほど遠く…。100メートルのベストより1秒以上遅いのはよほど感覚が悪くないと、そういうことはおきないと思う。練習でも出さない記録。答えは1人では出ないと思う。見てもらっている人の意見も聞きつつ、レースを振り返る。素人でもないし、若手でもない。目を背けないで、考えていきたいと思います」

奇しくも、この日は東京オリンピックの開幕1年前。延期がなければ、集大成の舞台は近づいているはずだった。「そのスタートラインに立つのはすごく難しいことですけど、もし今日が開幕なら、大変なことなので、今日が本番じゃなくてよかった。それだけですね」。自分に言い聞かせるように、明るい声で、前向きに語った。【上田悠太】