青学大を7度目の総合Vへ導いた原晋監督(56)は監督歴20年のノウハウを生かし、駒大1強の下馬評を覆した。今大会の出走10選手のうち、前回大会も走ったのは太田と佐藤のみで、2大会連続出場が2人のみはシード10校の中で最少。逆に初出走は7選手で、復路は全員が初の箱根路だった。経験値不足も懸念されたが、指揮官の起用はズバリと的中した。

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大会新記録Vを遂げた原監督は、豪快に笑い飛ばした。「皆さん、青学が勝つなんて誰も思っていなかったでしょ。誰か思っていました? 俺も思っていないんだから」。駒大1強の前評判で迎えながら、9区間で駒大の区間順位を上回った。04年の就任以降、ゼロから常勝軍団を築き上げた指揮官の手腕が光った。

「こちらが120%の力を発揮し、かつ相手が自滅しなければ無理」という見立てで迎えた今大会。オーダーには7人の初出走者を並べ、4年生3人の中でも7区山内と9区倉本は初舞台だった。これは「実績は関係なく選考する」と明言し、箱根で最も好調な選手を起用するように努めてきた証拠。区間賞を獲得した倉本は「4年間でしっかり練習を積めば、絶対に走れると思っていた」と諦めることはなかったとうなずいた。指揮官は「体系化させた原メソッドの基本軸があるからこそ」と誇った。

12月にはアクシデントにも見舞われた。チーム内でインフルエンザに10人弱の選手が罹患(りかん)。例年は選考会などで追い込むタイミングを、箱根で力を発揮するため、あえて休養にあてた。「トレーニングを柔軟にできるようになった。それが大会新記録につながった」。それまでの疲労が抜け、メンタル面でもリフレッシュができた。

過去の実績にとらわれず、臨機応変な対応をみせた監督は、言葉でも選手たちの重圧を振り払った。12月28日の全体ミーティング。「本音8割、2割はほっとさせる」という意味を込めて、学生たちに「準優勝でいいよ」と伝えた。その言葉に逆に選手たちが発奮。選手たちのみでミーティングを開き、あらためて目標を明確化した。「学生たちは『優勝だ』となっているので、力を抜かせようと。『準優勝でいい。その先に優勝がある』と。現実を見ず、学生の気持ちに乗っかって『優勝だ、優勝だ』と輪をかけるように言っても、うそになる」。絶妙な声かけでチームの“120%の力”を引き出した。

「私以上に学生たちが優勝したい思いが強かったレース。学院創立150周年、監督就任20年、箱根駅伝100年、この3つのタイミングで優勝させていただいたことをうれしく思う」

巧みなタクトで導き、再び黄金時代の幕が開けた。【藤塚大輔】

○…2つの吉兆データが的中!? 原監督は毎年箱根のテーマを「○○大作戦」と掲げている。この1文字目の母音に注目すると、初優勝した15年以降はすべて「a」のつく年に制覇していた。今回のテーマは「負(Ma)けてたまるか大作戦」で“不敗伝説”は継続。また、今季は出雲5位、全日本2位で、20年の箱根も同様の順位推移から制していた。王者は運も味方につけていた。