<スーパー陸上連載:世界に挑む>中

 日本男子短距離エースの塚原直貴(25=富士通)は今、体がうずいている。「思い切り暴れたい」。レースを欲した状態で今大会を迎える。

 チャレンジ精神旺盛な塚原は今季、世界一流の門をたたいた。4月から1カ月間、07年世界陸上100メートル金メダリスト、タイソン・ゲイ(米国)が師事するブラウマン・コーチの下で武者修行を行った。力強い踏み込みで足の回転数を上げるスタート技術などを改良。成果を日本に持ち帰り、実戦で消化しながら自分のモノにするはずだった。

 だが6月の日本選手権では優勝を逃し、両太もも裏を肉離れ。復帰できたのは4、5日のコンチネンタル杯(クロアチア)からだ。同選手権直後は再びゲイと合流し、遠征で世界を飛び回っているはずだったが、故障でプランは狂った。

 今季100メートルは4大会の出場のみ。「前半戦の積み重ねが少なすぎる。来年のためにいい余韻を残したい」。11月のアジア大会まで今大会を含め、3大会に出場予定。急ピッチで試合勘を取り戻そうとしている。

 明るい材料もある。故障明けの練習では、高野コーチから助言を受け、好感触を得た。「昨年みたいに足を地面に押しきるのではなく、押すまでのインパクトを意識している。重心の運びがスムーズになった」。春先に米国で修業したことで、今回の助言に対する理解度も深まったという。「米国産と国産の技術を融合させたい」と和洋折衷でレベルアップを図ろうとしている。

 今大会には、白人で初めて9秒台突入となる9秒98をマークしたルメートルが参戦する。塚原は「今の状態だと同じ土俵で戦えるか疑問だが、スタートラインに立つ以上、失礼のないように頑張る」とコメントしたが、「条件がよかった部分もあるでしょう」と強気な言葉を発したこともあった。9秒台に対する思いは負けていない。【広重竜太郎】