08年北京五輪男子マラソンで金メダルを獲得したサムエル・ワンジルさんが15日、母国ケニアの自宅バルコニーから転落し、死亡した。同国の警察当局が16日、発表した。24歳だった。自宅での浮気現場を妻に目撃された直後の転落死で、事故か自殺かで警察当局の見解は割れている。ワンジルさんは02年に来日して7年間、日本で生活。日本育ちの金メダリストとして話題になった。一方で、最近では妻らを脅迫して告訴されるなど、私生活での問題が絶えなかった。

 日本で育った長距離界のホープが、非業の死を遂げた。ワンジルさんの自宅がある首都ナイロビから約150キロ北西のニャフルルの警察当局によると、ワンジルさんは15日午後11時半ごろ、知人女性と寝室にいたところを帰宅した妻に見つかった。妻と口論になった末、部屋に閉じ込められたワンジルさんはその後、2階バルコニーから転落。内臓や顔などを激しく損傷し、搬送先の病院で死亡が確認された。

 ワンジルさんは当時、酒を飲んでいた。地元警察は逃げた妻を追いかけるために飛び降り、誤って事故死したとみている。ワンジルさんの代理人ローザ氏は、英BBCの取材に対し、「自殺は100%ない。(亡くなった15日の)夜に私の車を借りに来ていて、(16日の)朝に返しに来るはずだった」と答えた。一方で国家警察のキライテ・スポークスマンは「ワンジルは自殺したということが事実だ」とし、見解が割れている。妻と女性から事情を聴いている。

 ワンジルさんは、思春期を日本で過ごした。天性のスピードを見初められ、15歳で日本へ陸上留学。仙台育英高では2、3年時に高校駅伝を制覇した。卒業後も日本に残り、トヨタ自動車九州入り。北京五輪前に退社したものの、金メダルを獲得した。日本食を好み、書道では02年の国際高校生選抜書展で大賞を受賞。和の心を持つアフリカ人だった。

 五輪後もマラソン4レースで3勝を挙げ、来年のロンドン五輪出場にも意欲を見せていた。その一方で、近年はトラブル続き。昨年12月には、妻と家政婦を銃で脅したとして告訴され(後に取り下げ)、今年1月には自動車で事故に遭い、頭をケガしていた。4月に予定していたロンドンマラソンも右膝故障で断念。最後も女性問題のもつれから、波瀾(はらん)万丈の人生の幕を閉じた。