14年ソチ五輪王者羽生結弦(22=ANA)が連覇を狙う来年2月の平昌五輪の新プログラムが決まった。ショートプログラム(SP)は「バラード第1番」、フリーは「SEIMEI」。ともに2季ぶりの再演となった。そこにはどんな戦略が込められているのかジャンプ、曲と2つの側面から探る。

 「5本です」。羽生の声は弾んでいた。8月8日、カナダ・トロントでの公開練習で平昌五輪シーズンのフリー「SEIMEI」で5本の4回転ジャンプに挑むことを発表した。ソチ五輪シーズンはSPで4回転1本、フリー2本の計3本。今季はSP2本、フリー5本の計7本。4回転ジャンプの増加はこの4年間の成長を示す。12年から同地で指導するトレーシー・ウィルソン・コーチ(55)は「彼は挑戦をやめない。これこそ真の王者」とその姿勢をたたえた。

 4回転は成功すれば1本で10点以上の得点を稼げる一方、転倒すれば4点を失うリスクがある。しかも羽生は5本中、基礎点が1・1倍となる後半に3本を組み込む攻めの構成。本人は「ちゅうちょすることなく」決めたと明かす。

 2月の4大陸選手権では、ネイサン・チェン(米国)がフリーで史上初の4回転5本に成功。羽生はフリーで自身初の4本を決めたが、僅差で敗れた。4回転の出来が同じであれば数が勝負を分けると痛感した。それから約2カ月後の昨季最終戦、国別対抗戦。羽生はフリーで5本のジャンプに挑戦。4本しか跳べなかったが、世界で初めて後半に3本を成功させた。その時に得た感覚が5本の導入へと背中を押した。

 チェンや宇野昌磨、金博洋(中国)らはルッツ、フリップなど羽生より得点の高い4回転を跳べる。基礎点は彼らに劣る可能性がある。それでもブライアン・オーサー・コーチ(55)は「もっと別に戦える部分がある。勝算がある」。羽生のよどみない跳躍は成功すれば、最高3点までの加点を得られやすい。スケーティング、スピンなどジャンプ以外の部分を合わせれば、ライバルを上回ることが可能との青写真を描く。

 羽生が恐ろしいのはまだジャンプに伸びしろがあることだ。自身の4回転4種類目となるルッツは「まぁ、跳べます」と言える状態だが、あえてプログラムに入れない。「今の構成でしっかり、きれいにまとめる。1つの『SEIMEI』をまずしっかり完成させたいと思います」。「まず」の先にある可能性を秘めながら、勝負のシーズンに入る。【高場泉穂】(つづく)