先日、「未来(あした)への道 1000キロ縦断リレー」に参加した。7月24日から8月7日の日程で青森から東京まで、ランニングとバイクでタスキを繋げる。

 このイベントの目的は、東日本大震災の記憶の風化を防ぐこと、全国から集まる参加者と被災地の方々の絆を深めることだ。2013年から始まり、今年で5回目の開催だ。

 私は、3度目の参加になる。

 アスリートを始め、多くの著名人が一般の参加者と走る。

 久しぶりに会うアスリート仲間や、参加者の方と触れ合う時間にいつもエネルギーをもらうイベントで、素晴らしい時間を過ごさせてもらっている。

 こんな触れ合いの中にスポーツの可能性を感じることができる。

 私がタスキをつないだのは茨城県水戸市と千葉県旭市だった。同じ区間を走ったのは、競泳の宮下純一さんとスポーツジャーナリストのフローラン・ダバディさん、それに一般のランナー数名。とても気分よく走ることができ、リフレッシュした気分でゴールした。「やっぱり走るのって楽しい」。そう感じていたが、以前はそんなに走ることが得意ではなかった。

 私は競泳出身なので、泳ぐことが専門。「走る」ということがそもそも苦手だった。

 走るなら泳ぎたい。

 いつも思っていた。2012年に現役を引退すると、泳ぐことが仕事でなくなり、スポーツとの関わり方が少しずつ自然と変化していった。からだを動かす重要性は経験から当たり前に理解していたが、「どうやってスポーツをしよう」。そんなことを考えていた。

 限界を越えたりすることがスポーツならば、もうそんなことは出来ないし、生活時間の使い方も変わりそんな時間はない。

 現役の時は、タイムを伸ばすため、勝つためにスポーツをしていたが、「勝つ」という意識が、もう必要なくなった。では、どうやってスポーツに関わるのがベストなのか。なんのためにスポーツをするのか。

 混在する思考を経て、私は少しずつだが答えを見つけていった。周囲の友人や、仲間たちのヘルシーな生活にも影響を受けた。

 友人たちは、ヘビーなビジネスマンだ。彼らは、仕事が忙しければ忙しいほど生活にスポーツを取り入れていた。毎朝8時からの勤務時間の前に、5時に起きて6時からジムに行ったり、走ったり。ウイークエンドも好きな時間に走って思考をリフレッシュさせていた。「なんでそんなにスポーツが好きなの?」との問いに、「仕事の効率も上がるし、走り終わったときに本当に気持ちがいい」と話していた。

 スポーツへの取り組み方のさまざまなロールモデルに触れた。そのおかげで、生活の中にスポーツがある感覚が、徐々に私にも理解できるようになった。「人生を豊かにするために、仕事を頑張るために」スポーツをする。現役時代は1日のほとんどをスポーツに使っていた私だが、今度は生活の一部にスポーツを取り入れていくという意識が生まれてきた。

 「走るのは苦手」

 その意識も仲間と走ることで薄れていった。

 今回の1000キロリレーもそうだが、誰かとスポーツをすることでその中に会話が生まれる。相手への理解が生まれる。そんな風に、スポーツは見えない価値を生む。

 昨日まで知らなかったのに、一度一緒に走ってゴールした時には、「もう終わっちゃった」少し寂しい気持ちになるほどだ。

 スポーツは、人と人を繋ぐ。

 たくさんの方に体験してもらいたい感覚であることは間違いないだろう。

(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)