昨年12月に全国高校バスケットボール選手権を取材した。開幕前から毎日体温を測り、入場時の検温と消毒を義務づけられ、選手への取材はアクリル板を挟んで行われた。それでも関係者から新型コロナウイルス感染者が出た。大会後に感染が判明したチームもあった。試合を再開したJリーグもプロ野球も複数の選手が陽性判定を受けている。

目に見えないウイルスは、どんなに対策を尽くしても侵入してくる。ロックダウン(都市封鎖)した欧米でも感染は収束していない。だからこれほど世界に広がった。200以上の国から1万人を超える人を集めれば、少なくない感染者が出ると考えるのが自然だろう。だから「コロナに打ち勝った証し」の“うたい文句”は、今の現実を直視していない。

東京五輪・パラリンピック組織委員会の新会長選考が注目されている。前会長の女性蔑視発言に内外から反発の声が上がり、後任をめぐって政治的思惑と、密室会合が批判の矛先になっている。ずいぶん争点が広がったが、そもそも8割超の世論が今夏の開催に反対したのは収束しないコロナへの危機感と、開催ありきで事を進める政府への不信感だったはず。そこを忘れてはいけない。

女性や元アスリートなどの名前が候補に挙がっているが、私が新会長に求めるのは謙虚に現実を受け入れて国民目線で行動できる人。組織委に中止を決める権限はないので開催が決まっている以上、準備は進めなければならない。そんな中、国民の支持を回復するには、厳しい世論に真剣に耳を傾け、感染リスクを正直に開示して、具体策と開催意義をていねいに語る以外に道はないと思うからだ。

五輪・パラリンピックを開催できても、国民の理解がなければ成功はない。差別を許さない、透明性のある生まれ変わった東京を内外にアピールすることも大切だが、今回の騒動でさらに冷え込んだ世論を、少しでも味方にするための地道で粘り強い努力こそが、新会長に託されたもっとも大きな仕事だと思う。【首藤正徳】