先週末に行われた飛び込みワールドカップ代表選考会で、個人の代表も決定した。

今回はトップ争いが激化した男子選手に注目したい。


■高難度を簡単そうにこなす


まずは男子3mを制した須山晴貴(21=島根大)だ。175センチの長身を生かしたダイナミックな演技の中にも、丁寧さと滑らかさがあり、見ていてとても美しく、心をつかむものがある。そして高難度の技ですら簡単そうに見えるから不思議だ。


6回目の演技を終え優勝を確信して、ガッツポーズを決める須山(撮影・丹羽敏通)
6回目の演技を終え優勝を確信して、ガッツポーズを決める須山(撮影・丹羽敏通)

準決勝では6本のうちの2本目で助走に失敗し、0点を出してしまった。実は彼にとって今回に限ったことではなく、これまでも大事な場面での失敗でチャンスを逃してしまうことがあった。そのため彼を応援する側としては毎回最後の1本を飛び終えるまで安心できなかったのだ。

飛び込み競技の得点は、決勝ではまたゼロからのスタートになるため、点数を引きずることはないが、メンタル的に引きずる場合が多い。今回はそこをうまく切り替えて決勝に臨めたこと、そして試合の流れや、会場の応援も味方につけられたことも大きな勝因だろう。


■たくさんの応援を力にして


演技自体にも少なからず人柄が出るが、試合での歓声や応援も選手の人柄が左右する。そこがある選手はやっぱり強い。私が現役時代から、世界の男子のレベルにはため息が出るほど壁は厚いが、彼にはたくさんの応援団がついている。その力を自分の力に変えて、ぜひともオリンピックの晴れ舞台に立ってほしいと思う。まずはワールドカップでの彼の活躍が楽しみだ。


84点の高得点をマークした須山の6回目の演技(撮影・丹羽敏通)
84点の高得点をマークした須山の6回目の演技(撮影・丹羽敏通)

今まで男子3mを引っ張ってきた坂井丞(27)は、予選からあまり点数が伸びず、決勝では2位争いを繰り広げていた。ラスト1本まで結果がわからない状況だったが、調子を上げてきていた伊藤洸輝との競り合いに負け3位となり、個人でのオリンピック出場の可能性は無くなった。


■世界レベルの演技


そしてもう1人。何といっても注目すべきは玉井陸斗(13=JSS宝塚)だろう。会場の全視線を集める中、決勝6本目の5255B(後ろ宙返り2回半2回半ひねりエビ型)を完璧な演技で決め優勝した。世界でも通用する圧巻の演技だった。


男子高飛び込み決勝、演技する玉井(撮影・鈴木正人)
男子高飛び込み決勝、演技する玉井(撮影・鈴木正人)

これでやっとスタートラインに立てた。世界大会には年齢制限があり、ワールドカップが彼に与えられた最初で最後のオリンピック選考会になる。

最近ではテレビや新聞などメディアで目にする方も多いと思うが、その彼が今回、期待通りの結果を出してくれた。

弱冠13歳の小柄な体形だが、飛び込み台では別人のようなダイナミックな演技を披露する。これはもう生まれ持った才能でもあるが、ジャンプ力や回転力、そして飛び込み競技で最も重要となる水しぶきを上げない入水技術は世界でもトップレベルだ。


■引き付ける力が得点に


飛び込み競技は人が採点するため、どれだけ人の心を感動させられるかということは、かなり重要になってくる。そして見ている人を引き付ける力というものも必ず得点にも表れると私は思っている。それを彼は持っている。

東京オリンピックに出場できれば13歳10カ月という日本男子最年少記録ということもあり、たくさんの取材や周りの期待を一身に受けている。このことを力に出来る選手はいい。だが、このために自分の力を存分に発揮できないケースも多くある。


男子高飛び込み決勝、演技を終え笑顔を見せる玉井(撮影・鈴木正人)
男子高飛び込み決勝、演技を終え笑顔を見せる玉井(撮影・鈴木正人)

私も経験してきたが、選手というのは人生の中でも輝くのはほんの一瞬。限られた時間の中で結果が求められるシビアな世界である。

彼はまだ若い。これからさらに注目を浴び、期待も大きくなるだろう。この長い歴史の中で、まだオリンピックでのメダルを獲得できていない日本の飛び込み界にとっても、彼に賭ける期待は大きい。だが、期待とともに成長期や思春期が重なる彼を温かく応援してほしいと思う。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)