3月20日から21日にかけて、金沢プールで飛び込みの夏季ユニバーシアード(8月・中国)選考会が行われた。コロナ禍で無観客となってしまったが、選手たちは練習の成果を思う存分発揮できたことだろう。


女子3メートル板飛び込み決勝で演技をする三上
女子3メートル板飛び込み決勝で演技をする三上

ユニバーシアードは、国際大学スポーツ連盟が主催する2年に1度の大学生の世界大会。オリンピックやアジア大会と同じように多くの競技が行われ、選手村も設置されている、とても大きな大会のひとつだ。

出場資格は、大会が開催される年の1月1日現在で17歳以上28歳未満であること。なおかつ、大学または大学院に在学中、もしくは大会の前年に大学または大学院を卒業した人という制限もある。

選手としても一番脂ののったこの時期。競技人生を掛けた最後の頑張りをみせる選手も少なくない。私の経験上ではあるが、ユニバーシアードでは、飛び込み競技は各国の2番手の選手が出場することが多い。なぜならトップ選手は、その年のメインとなるオリンピックや世界選手権といった最も大きな大会に照準を合わせ調整していることが多いためだ。

しかし日本は出場条件を満たしていれば、トップ選手を出場させる。そういった理由からも、ユニバーシアードでは日本はメダルを狙いやすい位置にあると感じている。

今回の選考会では、東京オリンピックの最終選考会であるワールドカップ(W杯)に出場を決めている選手も多数出場していた。

まずは男子10メートル。優勝したのは、安定した演技を披露した西田玲雄(近大)だった。予選では自身の最高得点を更新し、合計450.50点で決勝へ進出。決勝では、予選の点数には1歩届かなかったものの、練習の成果を十分に発揮した試合だった。


男子高飛び込み決勝で演技をする西田
男子高飛び込み決勝で演技をする西田

次に注目したのは、女子3メートルに出場した三上紗也可(米子DC)だ。2019年7月に韓国・光州で行われた世界選手権では同種目で5位に入り、既に東京オリンピックの出場権を獲得している実力者である。予選では西田と同様、安定した演技で自己最高得点をマーク。しかし決勝では、小さなミスが続き2位に終わった。今回は世界の女子でも数人しか飛べない技、5154b(前宙返り2回半2回ひねり)を封印しての試合だった。

試合後、三上に試合の感想を聞くと、「誰かに負けることが久しぶりで悔しかったですが、また一から体を作り直して頑張ろうと前向きにとらえて練習しています。余計なプレッシャーが減って、まだまだ未熟でチャレンジャーの選手だと再確認しました」という答えが返ってきた。優勝できなかったことで逆に、挑戦者だったころの初心に帰ることができたようだ。

強くなればなるほど、周りからの「優勝」への期待が大きくなるのは当然である。しかし、優勝し続けることは本当に難しい。私も幾度となく経験した。

選手としてはつらいことではあるが、時には「負ける」ということが必要な時もある。悔しい思いこそが己を成長させ、次の目標への努力へとつながるからだ。

2人とも、とても素晴らしい実力を持ち、努力出来る才能もある。これからの活躍にも、引き続き注目したい選手たちだ。

間近に迫っていたW杯が予定通り開催できなくなり、ユニバーシアードの開催にも不安はある。今は、本当に心が折れそうになる試練が多いが、私は無駄な経験は1つもないと思っている。選手であれば、結果はもちろん大切だが、選手を終えた後の人生の方が長い。競技生活を通して、さまざまな感情を味わい、たくさんの経験を自分のものにしてほしいと思う。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)