異変が起きていたのは、明らかだった。16日の水泳世界選手権女子高飛び込み準決勝。親子3代での五輪を目指す金戸凜(15=セントラルスポーツ)の入水が大きく乱れた。70点台が欲しい種目で38・40点。2本目の44・55点と2本連続失敗。この時点で18人中18位。金戸はプールから上がると飛び込み台の下ですぐ右肩に氷〓(ひょうのう)をあてていた。

午前の予選は333・95点で5位通過。「足は震えてました」と笑ったが、堂々とした振る舞いは世界選手権初出場の緊張を感じさせなかった。その得点は準決勝に置きかえても5位相当だった。何もなければ、祖父母、両親に続く「金戸一家」で通算11度目の五輪は近いはずだった。

「何か」が起きたのは準決勝1本目だった。演技自体は75・00点で成功。しかし入水直後に右腕が水流で後方にもっていかれた。高さ10メートルからわずか2秒弱、時速50キロ近くのスピードで水面に飛び込む衝撃は大きい。金戸は肩関節が柔らかく、特に右肩は自由度が高い。それは入水時のノースプラッシュを導くために、水面ぎりぎりまで腕の角度を調節できる武器でもあるが、その分だけ痛めやすい。父の恵太コーチは「やっちゃいけない角度にいってしまって。右肩が柔らかすぎて。水流を支える筋力はまだないので」。15歳は右肩が外れるような衝撃に襲われていた。

右肩は春先に痛めた。その後は肩の状態と相談しながら、調整を行ってきた。7日の韓国入り後は10メートルの練習を減らして、低い台から飛んで感覚をキープ。恵太コーチは「試合は1番いい体調でできるように。10メートルの本数はいつもの量の5分の1ぐらい。さじ加減がデリケートですね」。1週間の目安が40本を考えれば、現地での本数は10本弱。コンディション最優先で臨んだ予選5本はレベルの高さを見せつけた。ただ1日で予選→準決勝を戦うスケジュールは、リスクを伴っていた。

金戸はまだ15歳で、本格的にウエートトレーニングをやる年齢ではない。恵太コーチは「筋力をつけて固める時期じゃない。17、18歳で筋トレを入れる感じになる。彼女の競技人生を考えれば、あと10年ぐらいはあるので」と将来を見据えている。恵太コーチ自身は3大会連続五輪出場。右肩を鍛えていないのは15歳の可能性を狭めないためだ。それだけに大会前は「親としてはけがをせずに元気で帰してやりたい」と言っていた。

金戸は1本目が終わった時、父から「続けるか?」と聞かれて「続ける」と答えた。3本目が終わって最下位になったが「やるしかないな。あと2本だから自分の演技をしよう」。残り2本は64・40点、62・70点と立て直した。合計285・05点の17位で準決勝敗退。父は「立派に飛んだと思います」と娘を褒めた。

金戸に涙はなかった。「気持ちは悔しいです。でも肩をいいわけにしたくない。初めての世界選手権はとにかく楽しかった」と言った。五輪切符は持ち越しになったが「今回は五輪の内定をもらいにきたわけじゃない。世界選手権のメダルをとりにきた」ときっぱり言った。15歳は「親子3代の五輪出場」だけにとらわれることなく、その先を見据えている。【益田一弘】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

〓は(古とウカンムリを縦に並べて縦棒を貫き、下に襄のナベブタを取る)

◆益田一弘(ますだ・かずひろ)広島市出身、00年入社の43歳。五輪は14年ソチでフィギュアスケート、16年リオで陸上、18年平昌でカーリングなどを取材。16年11月から水泳担当。

女子高飛び込み準決勝 決勝進出を逃した金戸(右)は父恵太コーチとプールを去る(撮影・鈴木みどり)
女子高飛び込み準決勝 決勝進出を逃した金戸(右)は父恵太コーチとプールを去る(撮影・鈴木みどり)