「リエト=Lieto」とは、イタリア語で「喜ばせる」「幸せ」を意味する。

確かにこの日、彼は観衆を魅了した。

10月15日、東大阪市花園ラグビー場で開催されたラグビーの「ムロオ インターナショナルチャレンジマッチ」。花園近鉄ライナーズ-メルボルン・レベルズの前座として、高校3冠を目指す報徳学園(兵庫)と昨年度の花園王者・東海大大阪仰星が顔を合わせた。

先制を許した直後の前半9分、報徳学園のSO伊藤利江人(3年)は、自ら蹴ったグラバーキックを抑えて同点に追いつく。10分後にも伊藤のキックを、CTB森田倫太朗(3年)がトライに結びつけた。

互いに4トライずつを奪い合った試合は最後、伊藤のキックで勝ち越し。29-24で東海大大阪仰星に競り勝った。

春の選抜大会はコロナ禍で決勝戦が中止となり、東福岡と両校優勝。夏の全国高校7人制大会は、その東福岡との決勝戦を31-17で制した。伊藤が操る自慢のバックス陣だけでなく、今季はFWに軸となるNO8石橋チューカ(3年)を擁する。3冠へ、期待は高まる。

「(冬の)花園では仰星さんや、ヒガシさん(東福岡)と準決勝や決勝であたると思うんです。しっかり勝って、実力で優勝したい。僕たちの持っている経験を最大限出せば、いいアタックができると思っています」

背筋を真っすぐに伸ばし、受け答えする姿は礼儀正しい。伊藤の父・宏明さん(46)は大阪工大高(現常翔学園)から明治大へ進み、SOとしてサントリーなどで活躍した元日本代表。父がイタリア・スーパー10のラクイラに在籍した当時に、利江人は誕生した。「喜ばせる」「幸せ」-。両親が名前に込めた、願い通りに息子は育っている。

厳しい父は、気持ちの入っていないプレーをすると、決まってLINE(ライン)を送ってくるという。

「もうラグビーは辞めた方がいいんじゃないか?」

ただ、息子の考えはちょっとだけ違うようだ。

「集中しすぎてしまうと、僕は1人(の世界に)入っちゃうんです。気持ちを出し過ぎるのは、なかなか難しいです」

そう言うと、苦笑いを浮かべた。

チーム内での信頼の厚さは、西條裕朗監督の言葉からもうかがい知ることができる。

「(花園は)インゴールが広いのもあって、瞬間的に(キックを)考えたんでしょう。(人の話を)聞いて、引き出しとして持てる子です」

東京で育ち、高校は兵庫を選んだ。報徳はいいバックスの選手を輩出する。そんな理由からである。

「高校3冠を目指すことができるのは僕たちだけなので、必ず取りたいです。広い視野と、周囲を生かすコール(声)。これからもっと、周りを見てアイコンタクトをしながらやれるようにしたいです」

101回の歴史を誇る全国高校ラグビーで、過去に報徳学園の優勝はない。

リエトに導かれ、もうすぐ幸せの冬が訪れる。

【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)

東海大大阪仰星対報徳学園 後半、スクラムで激しくぶつかり合う両チームの選手ら(撮影・前田充)
東海大大阪仰星対報徳学園 後半、スクラムで激しくぶつかり合う両チームの選手ら(撮影・前田充)
東海大大阪仰星対報徳学園 後半、激しくぶつかり合う両チームの選手ら(撮影・前田充)
東海大大阪仰星対報徳学園 後半、激しくぶつかり合う両チームの選手ら(撮影・前田充)
東海大大阪仰星対報徳学園 前半、激しくボールを奪い合う両チームの選手ら(撮影・前田充)
東海大大阪仰星対報徳学園 前半、激しくボールを奪い合う両チームの選手ら(撮影・前田充)