ラグビーの国内リーグである「リーグワン」に、世界の一流選手が次々と加入している。

トヨタヴェルブリッツは2月7日に、ニュージーランド(NZ)代表で114キャップのSHアーロン・スミス(34)と、同112キャップのSOボーデン・バレット(31)が来季から加わることを正式発表。スミスは“世界最高のSH”と呼ばれ、B・バレットは世界年間最優秀選手を2度(16、17年)受賞した実績がある。

コベルコ神戸スティーラーズも翌8日にNZ代表100キャップで“世界最高ロック”のブロディ・レタリック(31)の来季復帰を発表。なぜ、現役バリバリのオールブラックスが、日本に活躍の場を移すのか?

NZの英雄とも呼ばれるSOダン・カーター(21年に引退)が18~20年に在籍した神戸の福本正幸チームディレクターが17日に取材に応じ、リーグワンの現状をこのように明かした。

「やはり、日本で開催された19年ワールドカップ(W杯)の成功が理由の1つにあります。日本は安全で住みやすい。そういう印象が彼らに出てきたんでしょうね。サッカーならメッシ、野球なら大谷翔平らが日本球界にいるようなものですから。リーグワンにスーパースターを連れてきて、盛り上げたいという考えが各チームにあると思います」

ラグビーの母国・イングランドのプレミアシップでは経営が安定せず、昨秋にはウスター・ウォリアーズとワスプスが破産申告。そのため、ここ数年は北半球ならフランスのトップ14か、日本のリーグワンに移籍する流れが続いている。

フランスと日本を比較すると、興行として成功しているトップ14はより資金が充実。高額年俸を求めるなら、フランスを選択する選手が多いようだ。ただ、シーズンが8月から年をまたいで6月と約10カ月も続く。14チームによるホーム&アウェーの総当たりのリーグ戦後にプレーオフトーナメントもあり、試合数がリーグワンよりも多い。

激しく体をぶつけ合うラグビーにおいて、過密日程で長丁場を戦うのは疲弊し選手寿命に影響を及ぼしかねない。福本ディレクターは「イングランドもありますけど、最近は日本かフランスか、という流れです。ただ、フランスはシーズンが長い上に試合数が多いので体がボロボロになってしまう。それで環境のいい日本を選ぶ選手が増えている」という。

今季、日本には19年W杯で南アフリカを優勝に導いたSHデクラークが横浜キヤノンイーグルスにいる。オーストラリア代表ではCTBサム・ケレビが東京サントリーサンゴリアス、SHウィル・ゲニアと負傷離脱中のSOクエイド・クーパーが花園近鉄ライナーズに在籍。リーグワン2部の浦安D-Rocksにはスコットランド代表SHグレイグ・レイドローがプレーする。各チームが強豪国の主力を擁する。

その中でも、来季に限ってはNZ代表選手のリーグワン加入が相次いでいるのには理由がある。今秋にW杯フランス大会を控えており、NZ代表は母国のクラブに所属する選手を優先的に招集する。そのため移籍市場では、W杯を戦い終えてから日本のチームに加わる傾向になっている。

神戸はカーターを擁した18~19年シーズンに、前身のトップリーグで優勝を果たした。過去には94年度に日本選手権7連覇を達成する黄金時代もあった。

描く未来図を、福本ディレクターはこう説明する。

「神戸のやりたいことをカーターが理解して、優勝したシーズンは間違いなく世界に通用するラグビーができていたと思います。兵庫県は小中学生のラグビースクールが盛んな地域なので地元の子供たちが将来、神戸でラグビーをすることを夢見てもらえるチームになりたいですね。外国人だけに頼るのではなく、日本の選手が中心になって、強い神戸を取り戻したい」

今後は一流の外国人選手と地元で育った選手を融合させて、常勝軍団復活を目指す考えだ。【益子浩一】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)