女子ゴルフは、今週の大会で東京オリンピック(五輪)に出場する60人が決まる。28日付の世界ランキングに基づく五輪ランキングにより、原則各国・地域で2人が選出。五輪ランキング15位以内に3人以上いる国は、最大4人まで出場権を得る。日本代表は、最新世界ランキングで11位の畑岡奈紗の出場権獲得が確実。もう1枠を、25位の稲見萌寧、28位の古江彩佳、31位の渋野日向子が争っている状況だ。今週の大会の結果次第で、3人の順番が変わる可能性は十分。それだけに注目度も高い。

そして、忘れてはいけないのが、もう1人の日本人の存在だ。今月20日に20歳になったばかりの笹生優花。今月行われたメジャーの全米女子オープンで優勝し、現在の世界ランキングは9位と、日本人最上位にいる。ただし、東京五輪には母の母国フィリピン代表として出場の意向だ。

笹生は日本とフィリピンの二重国籍で、日本の法律では22歳までは両国籍の保持が認められている。一方で五輪は、いずれかの国、地域の代表での出場が原則だ。つまり東京五輪には日本とフィリピンの両国籍を有しながら、フィリピン代表として出場することになる。メジャーを制し、押しも押されもせぬ金メダル候補として出場する。

将来的には日本国籍にする意向だというが、フィリピン代表として、笹生が金メダルを取った時に、日本人の中にどんな感情が出てくるのかと考える。きっと少なからず「もったいなかった」「日本人として出場していれば」という声が出てくるのではないだろうか。どうしても五輪には国威発揚の側面がある。特に前回の1964年東京五輪を知る世代には、その思いが強いように思う。国別メダル獲得数には高い関心が示され「日本」「金」の項目に、貴重な1つを積み上げられなくなれば、残念がる人もいるのではないだろうか。

ただ、世間が国別メダル獲得数に興味を持っているのは、せいぜい五輪開催期間中ぐらいだろう。そのような一時的な感情のために、最初で最後かもしれない母国開催の五輪で、笹生への応援が少ないようなことがあれば、残念で仕方ない。1月にインタビューした際、笹生は2つの母国への思いを次のように話している。

笹生 お母さんがフィリピン人で、お父さんが日本人なので「どっち」ということじゃないんです。自分の中では日本人でもあるし、フィリピン人でもあるんです。ハーフの人はよく(国籍が)「どっち」と聞かれるけど「両方なんだけどな」という感じです。そこは、あまり気にしていないです。

フィリピンで生まれ、4歳から日本で生活し、練習環境を求めて8歳で再びフィリピンに渡った。通信制の代々木高に籍を置いていた18年のアジア大会は、フィリピン代表として個人、団体で金メダル2つを獲得した。そして「ジャンボ」こと尾崎将司に師事し、プロデビューの昨年は日本ツアーで2勝。日本とフィリピン、どちらの経験も、メジャー女王にまでなった今の笹生には欠かせなかった。

笹生の大会前の口癖は「楽しみたい」。これは、笹生のゴルフへの向き合い方から出た言葉だ。

笹生 子どもの時から、ゴルフをしていると楽しかったですね。でもゴルフはミスのゲーム。怒ってキャディーさんとけんかしたこともありました。そういう時に、お父さんから「そういうのは良くないよ」と言われました。楽しいことをしているので、ゴルフをしている時間を楽しもう、ゴルフ全体を楽しもうという感じで、今はやっています。

日本代表だから、そうじゃないからという理由で、応援するか、しないかが分かれるとすれば、すごくさみしい判断基準だと感じる。たまたまフィリピン代表というだけであって、母国日本での五輪出場を、笹生は人一倍楽しみにしてきた。ゴルフが好きで、日本にもフィリピンにも人一倍誇りを持って生きてきた。世の中には両親が日本人と外国人という人も増えてきた。応援する側も、五輪の見方、向き合い方に変化が求められる時代になっているように思う。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)