東京オリンピックは取材しなかったけど、取材したことのある選手は特に気になった。ボクシング男子フライ級銅メダルの田中亮明。判定負けした準決勝もグッと来た。サウスポーから前に出た。仕掛けた。3分×3ラウンド、ポイントの比重が高い短期決戦のアマチュアで、熱く前のめりなファイトだった。

地元の岐阜県多治見市の市役所では弟が、テレビ応援していた。元世界3階級覇者のプロボクサー田中恒成。「1回戦から“倒すボクシング”をすると言っていて、その気持ちが大振りにつながったかもしれない。でも、その気持ちだから、ここまで来れた。1回戦からの試合、全部良かったです」と話していた。

19年8月5日、名古屋市の畑中ジムで“兄弟スパーリング”を取材した。兄は東京五輪予選となる11月全日本選手権に向けて。WBOフライ級王者だった弟はサウスポー相手のV2戦に向けて。

「選択肢にプロはなかった。五輪だった。金メダルをというより、アマチュアボクシングが好きなんで」という兄は、弟を「有言実行で世界王者になって、3階級制覇して、5階級制覇を狙ってる。なかなかできることじゃない。度胸がある。勝負事に向いてる」と評した。

「五輪かプロかは高2まで迷ったけど“4年に1度”が待てなかった」という弟は、兄を「ボクシングに取り組む姿勢。1番遠回りの道を歩んで、挑戦し続ける。本当に逃げずに。マネできない。尊敬できます」と評した。

2人を空手から育て、弟のトレーナーを務める父斉(ひとし)さんにスパーの印象を聞いた。「スパーはう~ん…2年ぶりかな」。言葉は素っ気なかったが、うれしそうだった。

果たして2人は「五輪メダリストの兄」と「世界王者の弟」という、とんでもない兄弟になった。

さてコラムの趣旨から思いっきりそれたが、ここからゴルフの話だ。

7月末、有観客開催の楽天スーパー・レディース会場で、2週前のニッポンハム・レディースでツアー初優勝を飾った堀琴音の母貴久恵さんに会った。

「琴音ちゃん、良かったですね」。「ほんまにおかげさまで」。「なっちゃん(姉の堀奈津佳)も喜んでましたなあ」。「ねえ。“あんた、ほんまにわざわざ戻って来んでええから。練習しとき”て言うたんですよ。そやのに“いや、行く。絶対行く”言うて」-。姉は予選落ちし、開催地・北海道から東京に戻った翌日朝、飛行機で舞い戻り、妹の優勝を見届けた。

3歳違いの姉妹。姉奈津佳は13年にツアー2勝、14年もシードを守ったが、15年に落とした。妹琴音は15年に賞金ランク33位で初シード、16年は同11位、18年にシード落ちした。活躍した時期がズレたまま、ともにスランプに陥った。

18年4月、スタジオアリス女子オープン第2日、堀奈津佳は2年9カ月ぶりの予選通過を決めた。彼女は自分の近況を話しながら、妹に話が及ぶと「琴音の(ツアー)初優勝は絶対に見ます」と言った。貴久恵さんによると姉は過去2度、妹のチャンスにコースまで足を運んだ。三度目の正直だった。

3番、一緒に練習ラウンドする堀奈津佳(左)と堀琴音の姉妹(撮影・柴田隆二)
3番、一緒に練習ラウンドする堀奈津佳(左)と堀琴音の姉妹(撮影・柴田隆二)

ツアー優勝を姉妹で成し遂げたのは88年のツアー制施行後、福嶋晃子・浩子に次ぐ2組目になった。互いの存在が励み、刺激になる。堀姉妹の場合、完全復活したと言っていい妹に比べ、姉は20-21年シーズンで出場7試合中、予選通過は1度しかない。まだまだ道は険しいが、楽しみにしていたい。いつか姉妹が優勝争いを繰り広げる風景を。【加藤裕一】(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ピッチマーク」)

プレーオフを制して初優勝を決めた堀(右)は、会場に駆けつけた姉の奈津佳と笑顔で記念撮影する(撮影・浅見桂子)
プレーオフを制して初優勝を決めた堀(右)は、会場に駆けつけた姉の奈津佳と笑顔で記念撮影する(撮影・浅見桂子)