帝京大が史上最多を更新する8連覇を果たした。東海大の強力FWに苦しめられ、後半23分まで1度もリードを奪えなかったが、WTB吉田杏(3年)のトライで逆転。終了間際のピンチをしのぎ、逃げ切った。新日鉄釜石(現釜石シーウェイブス)と神戸製鋼が日本選手権で記録した7連覇を超える日本ラグビー界での偉業。帝京大は21日開幕の日本選手権でのトップリーグ勢打破を誓った。

 苦しんだ末の歓喜の味は格別だった。帝京大はトライで7点差に追い詰められると、残り5分から自陣で猛攻を受けた。同点を期待する「東海大」の大コールが会場に響く中、時計は40分を過ぎた。ゴールラインまでは5メートル。だが、ここから強烈なタックルを連発。最後は相手の落球を誘い、激闘に決着をつけた。

 ラグビー史に名を刻むV8。137人の選手、スタッフの手で8度宙に舞った岩出雅之監督は「最後は学生を信じているかを試されているような気分だった。しぶとく戦ってくれた。誇りに思う」。58歳の名将が拳を突き上げ、満面の笑みで選手をたたえた。

 1年間の積み重ねが大舞台で生きた。春先からチームの結束は思うように進まず、夏合宿では早大を相手に細かなミスを連発。連覇を支えてきたスクラムでも圧倒され、選手に動揺が走った。動いたのは、指揮官だった。部員に作らせた輪の中心で、自ら“本気”のセービングを披露。「初めて見た」と声をそろえた選手の心に火が付いた。

 サインプレーなど派手な練習に意識が偏っていることを反省。タックル、ボールの奪い合いといった「原点」の細かなプレーにこだわり、チームを立て直した。試合後、仲間にもみくちゃにされた亀井主将は「やってきたことを信じて戦った。目の前の勝負、ボールの奪い合いで厳しさを出せた」と充実感をにじませた。

 柔軟なかじ取りも偉業を呼び込んだ。岩出監督は今季の戦力を分析し、連覇の初期を支えたFW中心の攻撃にこだわらず、スペースへボールを動かす戦術を追究。スクラム練習を大幅に減らし、現状に適した武器を作り上げた。東海大に2本のスクラムトライを奪われても、「強みで戦う」と選手に動揺はない。5トライ中4トライをBKで返し、勝利をつかみ取った。

 大学日本一の座を守り、21日の日本選手権準決勝でトップリーグ覇者に挑む。来季から同選手権の大学枠が撤廃されることが決定的とあり、「日本一」を目指せる最後のチャンスとなる。亀井主将は「学生代表として思う存分出し切りたい」と言葉に力を込めた。【奥山将志】

 ◆ラグビー大学選手権の連覇記録 帝京大が更新するまで、大学選手権は同大の3連覇(82~84年度)が最多。2連覇も早大5回、明大と関東学院大が各2回記録しただけ、メンバーが毎年入れ替わる学生の連続優勝の難しさが分かる。社会人選手権では新日鉄釜石と神戸製鋼が7連覇を記録したが、8連覇を狙ったシーズンは決勝にも残れていない。他競技の大学選手権では、男子水球の日体大(21連覇、74~94年)女子バレーボールの日体大(13連覇、57~69年)女子ホッケーの天理大(13連覇、80~92年)など数例を除けば3~6連覇程度が最多。近年はスポーツに力を入れる新興の大学も増え、さらに勝ち続けることは難しくなっている。