世界選手権2連覇の阿部一二三(21=日体大)が、決勝で丸山城志郎(25=ミキハウス)に敗れた。激しい技の攻防が続いた13分23秒、丸山が捨て身でしかけた「浮き技」で技ありを奪われた。

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若さの勢いで勝ち続ける選手が、突然勝てなくなることがある。研究され、通用していた技が効かなくなるのだ。本当に強くなるには、必ず通る道。乗り越えれば1つ上のステージにいける。今の阿部選手には、強くなる可能性がある。

私は金メダルを期待された88年ソウル・オリンピック(五輪)で敗れ、苦しんだ。思い通りに背負い投げが通じず「こんなはずはない」と悩んだ。結局は組み手の種類を増やすことと、技の幅を広げることに取り組んだ。地道な努力でしか、壁は破れない。

勝てなくなったのが五輪直前でなくてよかった。今なら時間はある。十分に1ステージ上にいける。怖いのは相手に研究されている技を力任せにかけること。故障の原因になる。自分の弱い部分を素直に認めて真剣に向き合えば、勢いだけでない真の強さを持てる。

センスはあるものの柔道スタイルが淡泊だった丸山選手は「倒すべき相手がいる」ことで安定した強さを手に入れた。昨年結婚したのも大きかった。「倒すべき」阿部と「守るべき」家族が、この1年で丸山選手を戦う男に変えた。今回は東京五輪代表を占う大事な大会だったが、五輪代表の座を争う戦いは始まったばかりだ。(一般社団法人古賀塾塾長)

◆古賀稔彦(こが・としひこ)1967年(昭42)11月21日、佐賀県生まれ。東京・世田谷学園高-日体大。一本背負い投げなど切れ味抜群の技で「平成の三四郎」と呼ばれ、92年バルセロナ五輪金、世界選手権3回優勝など71キロ級、78キロ級で活躍した。90年には体重無差別の全日本選手権で準優勝。引退後は代表コーチとして金メダリストを育て、現在は環太平洋大女子柔道部総監督。