フィギュアスケート女子で2018年ピョンチャン(平昌)冬季オリンピック(五輪)金メダルのロシアのアリーナ・ザギトワ(17)は13日、同国の政府系テレビ「第1チャンネル」の番組で、選手としての活動を停止すると表明した。

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あれがザギトワの心が安らぐわずかで、貴重な時間だったのかも知れない。

11月のNHK杯(札幌)、夜に女子フリーが行われる日の午前中だった。リンクのある会場からウオームアップ場の建物まで徒歩で1人で移動する彼女とすれ違った。前日のSPは4位と出遅れ、うつむく姿ばかり。一夜明けても、その顔は硬いように感じられた。気になり、その後ろ姿を見守った。その時だった。進路を変え、歩み寄った先には一匹の柴犬がいた。散歩中の犬に近づき、しゃがみ込んでなでた。遠くからでも笑顔が分かった。30秒ほど触れあい、また勝負の時間に帰っていった。

1年半ほど競技について悩んでいたと聞く。秋田犬「マサル」を溺愛する姿が日本でも注目を集めたが、大好きな犬と交流してる時だけは悩みは忘れられただろうか。思わず地元の犬に駆け寄っていった札幌の姿を思い返すと、彼女の苦しみの深さが逆に際立つ。

その日の夜、フリーは巻き返して3位に入った。会見後、彼女に犬の名前は「くるみ」だと伝えると「かわいかったですね」とわずかに笑った。フィギュアスケーターには、技術もそうだが、表現として「その時」だからこそできる演技があると思う。また氷上でも、明るい顔で滑る日が来ることを願っている。【阿部健吾】