男子フリースタイル97キロ級の松本篤史(31=警視庁第六機動隊)が現役引退を表明した。準々決勝で山口剛(30)に敗れて東京五輪出場の可能性が消滅し、「これからは都民、国民を守る仕事に従事していきたい」と述べた。

6月の全日本選抜で敗れた山口との再戦。2-0とリードして迎えた第2ピリオド残り1分、組み際で上体が前のめりになりすぎ、いなされた。「狙われていた。同じ失敗をしてしまった」と背後を取られる痛恨の失点で2-2と並ばれ、ビッグポイントの差で敗れた。東京五輪出場には今大会で優勝し、3月のアジア予選を勝ち抜けばたどり着けた。ロンドン、リオデジャネイロでかなわなかった晴れ舞台。「本当の意味で集大成。三度目の正直でやってきた。一番良い状態で臨めたが」と振り返った。

トップ選手では珍しい2度の転向を経験した。16年にフリーからグレコローマンスタイルに変更し、17年には世界選手権も戦った(85キロ級で15位)。再びフリーに戻すと、18年世界選手権では92キロ級で銅メダルを獲得した。そこから階級を上げて「三度目の正直」に挑んできた。

兄隆太郎さんは12年ロンドン五輪のグレコ60キロ級で銅メダルに輝いた。兄を追う競技人生。「超えてやると思ってきたので、あのメダルには触ったことはない」と明かした。そして、「届きはしなかったが、自分も世界選手権でメダルを取れた。自分で褒めるのは嫌ですが、よくやったと思う」と謙虚に胸を張った。苦戦続きの日本の重量級で世界と伍(ご)した自負はある。

今後は後進に伝えたい思いがある。「日本の選手は97キロ級でもきれいなタックルが出来るが、自分はそれでは世界で通用しないと思ってやってきた。きれいなレスリングじゃなく、自分なりのやってきたことを伝えていける機会があれば」と望んだ。